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第三章 第一部 カースより始まる
6 民の声
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重い沈黙が場を支配した。
今まで誰もそんな可能性を考えたことがなかったからだ。
シャンタルの、そしてマユリアの口から紡がれる言葉は神の言葉、天の意思、それ以外ではあり得なかったからだ。
「それはあり得ることだと思います」
「キリエ様!」
思わぬ人の言葉にもう一人が驚いて反応する。
「アランの言う通りです。私はおそばでずっと見ておりました、マユリアがいかに苦悩なさってあの決定をなさってきたかを」
「キリエ様……」
ルギにも分かった。八年前のあの時のことを言っているのだと。
「ですが私は信じております。マユリアがどのような選択をなさり、どのような命を出されるとしても、それはこの世界のこと、この国のことをお考えになってのこと、決してご自分のためになさることではない」
キリエはアランを正面から見て、きっぱりとそう言った。
アランはその目の光の強さに気圧されながら、トーヤがこの人だけは敵に回したくないと言った意味が分かった気がした。
この年老いた侍女頭は、何があろうとシャンタルとマユリアを信じることをやめはしない。
それがたとえ、自分の、国の、そしてこの世界への滅びの道へ続く選択をしたとしても。
その運命にただ従う道を選び、進むことをやめはしない。
しばらくの間アランはキリエから視線を外せずに見つめ返していたが、
「一体」
やっと言葉を絞り出した。
「え?」
「一体、どういう生き方をしてきた人なんだ」
「え?」
もう一度キリエが首を傾げる。
「いや、いいんです、なんか、よく分かりました」
アランがそう言って力を抜くと、ふふっと笑った。
「まあ、さっきのもあくまで可能性の一つってだけですよ、他の可能性も考えましょう。ね、船長」
「あ、ああ」
ディレンが慌てたように相槌を打つ。
こんな時でも外れかけた路線を元に戻すのはアランの役割だ。
「ええ、お願いいたします」
キリエも何もなかったようにそう答える。
「では、神官長の仕業だった時の場合も考えますか」
「神官長は新しい国王派なんだろうが」
「今のところはそうだけど、何かのきっかけで寝返るってこともあるでしょう」
「そらまそうだが」
「トーヤも言ってたけど、この国でそのぐらい積極的なのって今のところ神官長ぐらいなんですよ。見えてないだけかも知れませんが」
「確かにな」
「見えてない方は隊長に任せて、俺らは可能性の高い人のこと考えてみません?」
「分かった」
「えっと、じゃあ神官長の仕業だった場合だけど、さっき言ったように、なんかの理由で寝返った、その可能性はありますよね」
「ああ、そうだな」
何もなかったように二人が言葉をつなげていく。
「つまり、新国王についてはみたが、いざ王座についたら思ったほど重用してもらえなかった、とかか」
「そうかも知れないですね。でもなあ、うーん」
アランが腕を組み考える。
「まだ王様になったばっかで、そんなすぐに思ったほどじゃなかったー、ってのは早いような気がするんですよ」
「まあ、そうだな」
「ってことは、寝返ったわけじゃない、のか?」
「そう考える方が自然だな」
「ってことは、何か目的がある?」
「だな」
「街で聞いたんですが、なんか、外の村で天変地異が起こってるって」
「天変地異?」
「山が崩れたとか、川があふれたとか、そういうのです。親をないがしろにして無理やり王座を奪った今の王様のせいだ、このままじゃリュセルスも、国全体も天の怒りを受けるって」
「そんな話になってんのか」
ディレンはまだ街での噂をよく知らなかったようで、聞いてびっくりする。
「トーヤと別れてから街中ふらふらしてて聞いたんすよ。隊長」
「なんだ」
「今の王様が皇太子時代に街ですごくいい噂があったって知ってます?」
「聞いたことはある」
ルギが認める。
「皇太子に年取った父親と一緒のところを親孝行とほめられた、街中のけんかをおさめてくださった、夫婦でお忍びで来てて子どもにお菓子をくれた。そういうの?」
「そうだな」
「隊長も知ってるってことは、かなり広く知られてたことなんですか?」
「そうだな、ここ三年ほどは特に多かったな」
「なるほど。それと同じですよね、やり方」
言われてみればそうであった。
「誰が言い出したか分からないけど、気がついたらみんな知ってる」
「確かにそうだった」
「最初のは神官長が言い出したのか皇太子ってのの考えか分かりませんが、やり口が似てるんですよね。誰かがそれを真似したのかも知れませんが」
「確かに似てるな」
ディレンも同意する。
「これ、他の国だったらお互いがやってんなーってんで済むんですけど、この国じゃあ、まあないことですよね?」
「確かに聞いたことはない」
ルギが認める。
もちろん、小さなレベル、例えばどこそこの御大家がどうした、とかそのレベルならないことではない。
「だが、王家の方々にそのような形で触れるということは、これまではなかったのではないかと思う。キリエ様どうでしょうか」
「そうですね」
この中で一番長くシャンタリオという国を知るキリエが考えて答える。
「王は天にこの国を任されている方、シャンタルの声にしたがって国を統べるお方。そのように言う民がいるとは今まで聞いたこともありません」
今まで誰もそんな可能性を考えたことがなかったからだ。
シャンタルの、そしてマユリアの口から紡がれる言葉は神の言葉、天の意思、それ以外ではあり得なかったからだ。
「それはあり得ることだと思います」
「キリエ様!」
思わぬ人の言葉にもう一人が驚いて反応する。
「アランの言う通りです。私はおそばでずっと見ておりました、マユリアがいかに苦悩なさってあの決定をなさってきたかを」
「キリエ様……」
ルギにも分かった。八年前のあの時のことを言っているのだと。
「ですが私は信じております。マユリアがどのような選択をなさり、どのような命を出されるとしても、それはこの世界のこと、この国のことをお考えになってのこと、決してご自分のためになさることではない」
キリエはアランを正面から見て、きっぱりとそう言った。
アランはその目の光の強さに気圧されながら、トーヤがこの人だけは敵に回したくないと言った意味が分かった気がした。
この年老いた侍女頭は、何があろうとシャンタルとマユリアを信じることをやめはしない。
それがたとえ、自分の、国の、そしてこの世界への滅びの道へ続く選択をしたとしても。
その運命にただ従う道を選び、進むことをやめはしない。
しばらくの間アランはキリエから視線を外せずに見つめ返していたが、
「一体」
やっと言葉を絞り出した。
「え?」
「一体、どういう生き方をしてきた人なんだ」
「え?」
もう一度キリエが首を傾げる。
「いや、いいんです、なんか、よく分かりました」
アランがそう言って力を抜くと、ふふっと笑った。
「まあ、さっきのもあくまで可能性の一つってだけですよ、他の可能性も考えましょう。ね、船長」
「あ、ああ」
ディレンが慌てたように相槌を打つ。
こんな時でも外れかけた路線を元に戻すのはアランの役割だ。
「ええ、お願いいたします」
キリエも何もなかったようにそう答える。
「では、神官長の仕業だった時の場合も考えますか」
「神官長は新しい国王派なんだろうが」
「今のところはそうだけど、何かのきっかけで寝返るってこともあるでしょう」
「そらまそうだが」
「トーヤも言ってたけど、この国でそのぐらい積極的なのって今のところ神官長ぐらいなんですよ。見えてないだけかも知れませんが」
「確かにな」
「見えてない方は隊長に任せて、俺らは可能性の高い人のこと考えてみません?」
「分かった」
「えっと、じゃあ神官長の仕業だった場合だけど、さっき言ったように、なんかの理由で寝返った、その可能性はありますよね」
「ああ、そうだな」
何もなかったように二人が言葉をつなげていく。
「つまり、新国王についてはみたが、いざ王座についたら思ったほど重用してもらえなかった、とかか」
「そうかも知れないですね。でもなあ、うーん」
アランが腕を組み考える。
「まだ王様になったばっかで、そんなすぐに思ったほどじゃなかったー、ってのは早いような気がするんですよ」
「まあ、そうだな」
「ってことは、寝返ったわけじゃない、のか?」
「そう考える方が自然だな」
「ってことは、何か目的がある?」
「だな」
「街で聞いたんですが、なんか、外の村で天変地異が起こってるって」
「天変地異?」
「山が崩れたとか、川があふれたとか、そういうのです。親をないがしろにして無理やり王座を奪った今の王様のせいだ、このままじゃリュセルスも、国全体も天の怒りを受けるって」
「そんな話になってんのか」
ディレンはまだ街での噂をよく知らなかったようで、聞いてびっくりする。
「トーヤと別れてから街中ふらふらしてて聞いたんすよ。隊長」
「なんだ」
「今の王様が皇太子時代に街ですごくいい噂があったって知ってます?」
「聞いたことはある」
ルギが認める。
「皇太子に年取った父親と一緒のところを親孝行とほめられた、街中のけんかをおさめてくださった、夫婦でお忍びで来てて子どもにお菓子をくれた。そういうの?」
「そうだな」
「隊長も知ってるってことは、かなり広く知られてたことなんですか?」
「そうだな、ここ三年ほどは特に多かったな」
「なるほど。それと同じですよね、やり方」
言われてみればそうであった。
「誰が言い出したか分からないけど、気がついたらみんな知ってる」
「確かにそうだった」
「最初のは神官長が言い出したのか皇太子ってのの考えか分かりませんが、やり口が似てるんですよね。誰かがそれを真似したのかも知れませんが」
「確かに似てるな」
ディレンも同意する。
「これ、他の国だったらお互いがやってんなーってんで済むんですけど、この国じゃあ、まあないことですよね?」
「確かに聞いたことはない」
ルギが認める。
もちろん、小さなレベル、例えばどこそこの御大家がどうした、とかそのレベルならないことではない。
「だが、王家の方々にそのような形で触れるということは、これまではなかったのではないかと思う。キリエ様どうでしょうか」
「そうですね」
この中で一番長くシャンタリオという国を知るキリエが考えて答える。
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