黒のシャンタル 第三話 シャンタリオの動乱

小椋夏己

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第三章 第一部 カースより始まる

 7 評判

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「まあ、そういう今までなかったことが起きてるってことなんですよね。そもそもが八年前、そのさらに十年前のあいつが生まれた時から。いや、もしかしたらもう少し前からかも知れないけど」

 アランの言葉にキリエとルギが黙り込む。

「そんで話を戻しますが」

 さすがにアラン隊長だ。

「だから、王様を元に戻したい派でそういうことしそうなやつは隊長に任せます。いるかどうか分からないけど」
「分かった」
「神官長のほうですけど、王様を元に戻して何か得することがあるか、他に何かあるかをちょっと相談したいので、船長と同じ部屋にしてもらっていいですか? お互いに一人で考えてるだけじゃ、考えが迷子になりそうなもんで、そうしてもらえると助かります」
「そうだな」
「分かった、そうしよう」

 ディレンも同意し、ルギも了承する。

「そうするに当って、いくつか聞いておかないといけないことがあるんですが、王様たちはどうなってるんです?」
「どう、とは?」
「いや、今の状態のことですよ、落ち着いてるとかいないとか。そういや前の王様ってどうなってるんです?」

 質問にルギが前王は「冬の宮」にいるらしいこと、新国王については何も特別なことが聞こえては来ないこと、それから、

「マユリアはご両親と相談して国王との婚儀を受けるかどうかを決めるとお約束された」
「え?」

 アランが驚いて聞き返す。

「前の王様との約束ってのは、そんじゃ、なしに?」
「あの誓約書は新国王が破られた」
「そうなんですか」
「それとは別にそうお約束をなさることとなったらしい」
「そうなんですか」

 マユリアの本意とは関係なく、人に、この国の民に戻ったら否とは言えまいと想像できた。

「宮からは王宮のことは見えにくく、王宮からは宮のことが見えにくいものです」

 キリエが話を変えるようにそう言って、

「ですが、できるだけのことは見ておきます。どうぞよろしくお願いいたします」

 と、頭を下げた。

「また聞きたいこととかがあったら衛士の人に言いますよ」
「はい」

 そうしてそのままディレンはアランの部屋に残ることになった。

「ふう」

 アランがベッドに音を立てて座る。

「これでやっと船長と話ができるようになりました」
「そうだな。で、あいつらはどこなんだ?」
「あ、それは本当に知りません」
「なんだって?」
「知らない方がお互いに動きやすいかもと思って聞いてません。トーヤも言いませんでしたしね。って、もしかしたらどこ行くか決まってなかったかも知れませんが」
「最後のが一番ありそうだな」
「そうっすね」

 確かに今回はそれが正解だった。

「しかし、どこに行ったか分からないでこれから先どうするつもりだ?」
「あ、それはなんとかなるんじゃないですかね。目的は変わらないし」

 あくまで最終目的は交代をうまくいかせること、シャンタルを人に戻したらその家族を連れて共に脱出すること、だ。

「だから、どうやってもここに来ると思いますよ、トーヤ」
「そうだな」
「そんで、あの噂をばらまいたやつのことですけど」
「本当に神官長だと思ってるか?」
「それはよく分かんないですね。でもありえると思ってます。理由はさっきも言ったけど、他にやりそうなやつがいないから」
「なんだその理由は」
「だって、街の様子見てたけど、みんな口で言ってるだけだったし」
「ああ」

 ディレンもそのあたりの空気はなんとなく想像がついたようだ。

「神官長だとしたら、一体何のためかってのが分かんないんですよ。わざわざ新王の評判落として何の得が?」
「そうだな」
「だから、わざわざ前の王様に戻ってほしいってあおるのが分からない」
「その噂が新国王の耳に入って、前の王様をどうにかするって可能性はあるぞ。そこまでやらせてすっきりしたいとかはないか?」
「あるかなあ」
「ないか?」
「だって、親を無理やり引退させたってだけで、天変地異だの天がお怒りだのって言われてるのに、命取ったりしたら、そりゃもうどんなこと言われるか。せっかく数年かけて上げた評判ガタ落ちっすよ」
「そりゃそうか」
「もしもどうにかするにしても、マユリアを手に入れてからでしょ。好かれたい、嫌われたくないって必死なのに」

 アランがそう言ってケラケラと笑った。

「誓約書っての破ったってえのも、親父と自分は違う、そう言いたかったからでしょうね」
「可愛らしいもんだな」
「ほんとっすよ」
「新王様ってのは、このこと聞いてると思うか?」
「う~ん、どうでしょうねえ」

 アランがふむふむと考える。

「普通のこの国の王様だったら、そんなこと全く気にはしないでしょ。民が親父が女集めて苦い顔してたってのだって、気にしてなかったように」
「そうだな」
「けど、息子の方は自分が評判よくしようってそういうのばらまいてる。ってことは、結構気にしてる?」
「ありえるな」
「でも、周囲の誰にか知らないけど、俺の評判はどうだ? って聞いたとして、正直に答えますかね」
「取り巻きとかがか」
「そうです」

 ディレンが少し考えて、

「俺が王様の腰巾着だったら言わんな」
「腰巾着」

 アランが小さく笑う。

「俺もですね。でもその噂ばらまいたやつは多分聞いてもらいたい。さて、知らせるのは誰だ?」
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