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第二章 第一部 吹き返す風
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「よう、戻ったぜ」
「トーヤ」
「おかえり」
ラデルの工房の2階、部屋に大人しく引きこもっていたアランとシャンタルの前に、8日ぶりにトーヤが姿を現した。
「早かったのか遅かったのか分からんが、どうだった? なんで戻った?」
「その前にだな」
トーヤがアランの向かいのベッドにギシリと腰を降ろし、
「おまえ、なんであのバカを止めなかった」
と、ジロリとアランを睨みながら言う。
「なんで知ってんだ」
「こっちも色々あってな。さて、どっちからどう話す?」
「そんじゃまずそっちから話してくれるかな。こっちはこっちでまあ色々考えた末のことだが、やっぱりそっちの話の方が気になる」
「分かった」
そしてトーヤはアランとシャンタルに神殿であったことを話すことにしたが、
「正直、どこをどう話せばいいのかまだちっと整理がついてない部分もある。だからまあ、軽くざっと流れだけな。後はもうちょい時間をくれ」
「分かった」
アランがそう答え、シャンタルも黙って頷いた。
トーヤは宮に戻ってすぐにキリエが自分に気がついたこと、自分たちが逃げ出した後で何があったかをざっとまとめて話した。
「ってことは、ミーヤさんはその懲罰房ってのに入れられてるのか」
「今はもう出てるけどな」
「容疑が晴れたのか?」
「そうじゃねえが、そこはまたもうちょい後だ。とにかく今はミーヤとセルマが懲罰房じゃねえ他の部屋に一緒にいるらしい」
「大丈夫なのか、それ」
「それなんだ、そこでベルの話を聞いた」
「ベルの?」
「青い小鳥だ」
「ああ」
リルにだけ分かる形でメッセージを伝えたい、それにはどうすればいいのかをここで考えてああいう風になったのだ。
「なんであの小鳥が」
「本当にどこからどう話しゃあいいのか混乱するな」
トーヤが困ったような顔で笑う。
「というわけで、とりあえずそれも後だ」
「なんだよ、気になるな」
「八年前と同じだな、不思議なことが普通に起きやがる」
「不思議なこと?」
「ああ」
「あの小鳥がそれに絡んでるってのか」
「そういうことだ。おかげで助かったけどな」
「う~ん、何がなんだか分からんな」
「どうだ、八年前の俺の気持ちが分かったろうが」
トーヤがからかうように言うと、
「まったくだな」
と、アランも困ったように笑う。
「当時のトーヤと今の俺が同じぐらいの年だろ? よくまあ、こんなことに一人で立ち向かったよ。やっぱあんたすげえや」
「おいおい、いいぞ、もっと褒めろ」
「おい」
こうして冗談口を交えながら、空気を和らげながら、なんとも言えない状況をほぐして話を進めていく。
「とにかく宮ではあのまま捜査を続けててな、例の香炉の謎がやっと解けたようだ」
ルギとアロが香炉と同じ塗料を使っていたらしい花瓶の変容に成功した話をする。
「けど、あくまでこれはあの青い香炉が先代シャンタルに献上された黒い香炉であっただろう、そう分かっただけだ」
「誰がやったかまでは分からんってことか」
「そういうことだ」
「それでまだミーヤさんとセルマの取り調べも進められてるってことか」
「多分な」
トーヤはキリエから聞いた「事実」の点の部分だけを短く話していく。
「そんで、不思議の部分だがな、これがな、どれをどう話していけばいいのか」
「ルーク」
いきなりシャンタルがそう言ったのでトーヤの顔色が変わる。
「夢を見たでしょ、ルークの」
「おまえ……」
「トーヤが見た夢を私に送ってきたよね」
「見たのか」
トーヤの顔が岩のように表情をなくした。
「どこまで見た」
「おそらく全部」
「そうか」
誰をどう責めることもできない。トーヤが送ろうと思って送ったわけではなく、シャンタルも見ようと思って見たわけではないのだから。
「俺も話を聞いた」
アランがそう言う。
「そうか」
「本当のことなのか?」
トーヤが一瞬黙ってから、
「おそらくは」
そう答えた。
「おまえらが一体何をどう知ったか分からんから、そうとしか言えんが、あのシャンタルが見た水に溺れる夢、多分それと同じような感じなんだろう。だったら多分本当だ」
「トーヤが経験したことを私に送ってきたってこと?」
「それは分からん。どうしてかってとな、俺が見てないことも見たからだ」
「見てないこと?」
「そうだ。俺と離れた後のルークがどうなったか、ルークが何をどう感じたか、そんなことを俺が知るはずないからな」
「そうだね」
シャンタルは思い出したのか目を伏せてじっと黙り込んだ。
「シャンタルがトーヤに話すのがつらいんなら俺が聞いた話をするが、いいか?」
アランの言葉にシャンタルがコクンと頷いた。
「俺が見て、その後でこいつから聞いた話はこうだ」
アランが冷静に話し出す。
「こいつはいつものように昼寝してたんだよ。それがいきなり苦しみだしたんで、驚いて起こしたら汗びっしょりかいててな、そんでルーク、トーヤって。ルークってのはトーヤが使ってた偽名だからトーヤのことかって聞いたら、違う、多分あの嵐の時の夢をトーヤが送ってきたんだ、そう言った。ルークが板を持ったまま海に沈んでいき、トーヤはその板を持っていた手を放した、そう言ったんだが、合ってるか?」
トーヤが見た景色そのままでであった。
間違いなくトーヤがシャンタルにあの夢を送ったのだ。
「トーヤ」
「おかえり」
ラデルの工房の2階、部屋に大人しく引きこもっていたアランとシャンタルの前に、8日ぶりにトーヤが姿を現した。
「早かったのか遅かったのか分からんが、どうだった? なんで戻った?」
「その前にだな」
トーヤがアランの向かいのベッドにギシリと腰を降ろし、
「おまえ、なんであのバカを止めなかった」
と、ジロリとアランを睨みながら言う。
「なんで知ってんだ」
「こっちも色々あってな。さて、どっちからどう話す?」
「そんじゃまずそっちから話してくれるかな。こっちはこっちでまあ色々考えた末のことだが、やっぱりそっちの話の方が気になる」
「分かった」
そしてトーヤはアランとシャンタルに神殿であったことを話すことにしたが、
「正直、どこをどう話せばいいのかまだちっと整理がついてない部分もある。だからまあ、軽くざっと流れだけな。後はもうちょい時間をくれ」
「分かった」
アランがそう答え、シャンタルも黙って頷いた。
トーヤは宮に戻ってすぐにキリエが自分に気がついたこと、自分たちが逃げ出した後で何があったかをざっとまとめて話した。
「ってことは、ミーヤさんはその懲罰房ってのに入れられてるのか」
「今はもう出てるけどな」
「容疑が晴れたのか?」
「そうじゃねえが、そこはまたもうちょい後だ。とにかく今はミーヤとセルマが懲罰房じゃねえ他の部屋に一緒にいるらしい」
「大丈夫なのか、それ」
「それなんだ、そこでベルの話を聞いた」
「ベルの?」
「青い小鳥だ」
「ああ」
リルにだけ分かる形でメッセージを伝えたい、それにはどうすればいいのかをここで考えてああいう風になったのだ。
「なんであの小鳥が」
「本当にどこからどう話しゃあいいのか混乱するな」
トーヤが困ったような顔で笑う。
「というわけで、とりあえずそれも後だ」
「なんだよ、気になるな」
「八年前と同じだな、不思議なことが普通に起きやがる」
「不思議なこと?」
「ああ」
「あの小鳥がそれに絡んでるってのか」
「そういうことだ。おかげで助かったけどな」
「う~ん、何がなんだか分からんな」
「どうだ、八年前の俺の気持ちが分かったろうが」
トーヤがからかうように言うと、
「まったくだな」
と、アランも困ったように笑う。
「当時のトーヤと今の俺が同じぐらいの年だろ? よくまあ、こんなことに一人で立ち向かったよ。やっぱあんたすげえや」
「おいおい、いいぞ、もっと褒めろ」
「おい」
こうして冗談口を交えながら、空気を和らげながら、なんとも言えない状況をほぐして話を進めていく。
「とにかく宮ではあのまま捜査を続けててな、例の香炉の謎がやっと解けたようだ」
ルギとアロが香炉と同じ塗料を使っていたらしい花瓶の変容に成功した話をする。
「けど、あくまでこれはあの青い香炉が先代シャンタルに献上された黒い香炉であっただろう、そう分かっただけだ」
「誰がやったかまでは分からんってことか」
「そういうことだ」
「それでまだミーヤさんとセルマの取り調べも進められてるってことか」
「多分な」
トーヤはキリエから聞いた「事実」の点の部分だけを短く話していく。
「そんで、不思議の部分だがな、これがな、どれをどう話していけばいいのか」
「ルーク」
いきなりシャンタルがそう言ったのでトーヤの顔色が変わる。
「夢を見たでしょ、ルークの」
「おまえ……」
「トーヤが見た夢を私に送ってきたよね」
「見たのか」
トーヤの顔が岩のように表情をなくした。
「どこまで見た」
「おそらく全部」
「そうか」
誰をどう責めることもできない。トーヤが送ろうと思って送ったわけではなく、シャンタルも見ようと思って見たわけではないのだから。
「俺も話を聞いた」
アランがそう言う。
「そうか」
「本当のことなのか?」
トーヤが一瞬黙ってから、
「おそらくは」
そう答えた。
「おまえらが一体何をどう知ったか分からんから、そうとしか言えんが、あのシャンタルが見た水に溺れる夢、多分それと同じような感じなんだろう。だったら多分本当だ」
「トーヤが経験したことを私に送ってきたってこと?」
「それは分からん。どうしてかってとな、俺が見てないことも見たからだ」
「見てないこと?」
「そうだ。俺と離れた後のルークがどうなったか、ルークが何をどう感じたか、そんなことを俺が知るはずないからな」
「そうだね」
シャンタルは思い出したのか目を伏せてじっと黙り込んだ。
「シャンタルがトーヤに話すのがつらいんなら俺が聞いた話をするが、いいか?」
アランの言葉にシャンタルがコクンと頷いた。
「俺が見て、その後でこいつから聞いた話はこうだ」
アランが冷静に話し出す。
「こいつはいつものように昼寝してたんだよ。それがいきなり苦しみだしたんで、驚いて起こしたら汗びっしょりかいててな、そんでルーク、トーヤって。ルークってのはトーヤが使ってた偽名だからトーヤのことかって聞いたら、違う、多分あの嵐の時の夢をトーヤが送ってきたんだ、そう言った。ルークが板を持ったまま海に沈んでいき、トーヤはその板を持っていた手を放した、そう言ったんだが、合ってるか?」
トーヤが見た景色そのままでであった。
間違いなくトーヤがシャンタルにあの夢を送ったのだ。
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