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第7章 どうやら四阿は八虐の謀大逆のようです。

乗鞍と死神さんvs死神姫

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 一方、こちらは乗鞍と死神さんがいる場所。
彼らの目の前にいるのは死神姫と呼ばれる女性であった。
十二単を着て、白肌の目が4つの異形な女性。
どうやら、このピンクムーンが店々を照らす空間を作りだし、迷いこんだカップルの魂を殿と呼ばれる者に渡すのが目的らしい。

「うちは『死神姫』と申します。これから貴校らを殺すものです。よろしゅう頼みます」

死神姫は頭を下げて、死神さんと乗鞍の2人に自己紹介を始める。

「あっ、ご丁寧にすみません。私は死神さんと申します。とある方の代わりにあなたを討伐しに参りました。そして、こちらは乗鞍さんです」

「さぁーて、自己紹介も終わった事だし、始めるか?  討伐させてもらうぜ」

乗鞍はそう言うと、いきなり死神姫に向かって殴りかかる。

「ちょっと!!乗鞍さん、敵の能力も分からないんですよ。慎重にしないと!!」

考えもしないで行動を始める乗鞍を死神さんが止めようとするが…。

「敵は敵!!!  ガハハハハハッ!!
吾輩の筋肉が戦いたいと奮えているのだ」

……と死神さんの言うことを無視して走り出す。

「血の気がお強い方ですね。うちは力がないから筋力勝負は苦手です」

死神姫はそう言ってはいるが、乗鞍から逃げようとはしない。
むしろ立ちすくんだまま動かない。

「いくぜ?『NAGURI』!!!」

動かない死神姫に向かって、乗鞍は思いっきり拳を入れる。
女相手でも敵ならば殴りかかる。
筋肉大事な漢。それが乗鞍なのだ。

「ッ!?」

だが、乗鞍の拳は殴りぬけることはなく途中で勢いを失ってしまった。



 そのまま、地面に手をついてしまった乗鞍。

「おやおや、うちにビビったのですか?
かわいそうに。でもうちの前から消えてください」

死神姫はそう言うと、地面に手をついたままの乗鞍を蹴り飛ばす。

「乗鞍さん!?」

蹴り飛ばされて地面に転がる乗鞍を死神さんは心配している。

「くっ、吾輩の筋肉がピリピリとしてくる。
異様な攻撃だぜ。ガハハハハハッ!!!   面白いじゃん」

「乗鞍さん、交代です。あなたは休んでいてください」

死神さんは乗鞍の代わりに死神姫を攻撃しに動き出す。
彼女は鎌を構え、死神姫の元へと走る。

「死神とやら、貴校もうちに挑むのですか?
なら、貴校でも手加減はしませんよ」

死神姫はまた彼女が向かって来るのに逃げない。

「その首いただきます」

死神さんはそう言うと、鎌を振るい攻撃を始めた。



 死神さんの鎌で繰り広げられる怒濤の攻撃の嵐。
だが、死神姫は意図も簡単に全てを避けてしまう。

「ほらほら、貴校らの遊戯はこの程度でございますか?  もっともっと舞いなさい?」

死神姫は死神さんを煽り、冷静な判断を失わせる。
死神さんは焦る焦る焦る。
「なぜ、攻撃が当たらないのか」と冷静に考える暇もなく焦る。

「そろそろですね?   お眠りください」

死神姫はそう言うと、自身の懐からお香を取り出し、死神さんの前に差し出した。



 「いったい何を…………」

そのお香の匂いを嗅いだ瞬間、死神さんの視界が揺らぎ始める。
身体は言うことを聞かず、大鎌を振るう元気がない。
死神さんはそれから数歩歩いた後、地面に倒れこんでしまい。

「Zzz~」

イビキをかきながら、天国にいるような気持ち良さそうな表情を浮かべて眠っている。

「かっ、可愛い~」

死神姫はその表情を見て、ホワホワとした気分になるが、自分の感情をグッと抑えて乗鞍を始末しに動き出す。



 「あのお嬢さん眠らせられちまった」

乗鞍はまだ筋肉がピリピリとして言うことを聞かない状況であった。
おそらく、普通の人間なら眠ってしまったのだろうが、乗鞍の素晴らしい筋肉が防御になって軽減してくれたのだろう。
本当の理由は誰にも分からないが、そういうことにしておこう。

「あぶねぇ~我輩の筋肉が極まっていたから我慢できたが、衰えていたらダメだった」

「筋肉にどれほど信頼があるのよ。
ああ、貴校も眠らせてあげましょうか?
優しい幸せな夢を貴校にあげましょう」

筋肉がピリピリとして動けない乗鞍の元に死神姫が近づいてくる。
その度にお香の匂いが強くなる。

「困ったな。我輩の筋肉がこれ以上ピリピリすると動けん。
なるほど、お前の能力はお香の能力。
お香の付喪神だな?」

自身の能力を言い当てられた死神姫。

「そうよ。そちの考察は正しい。うちはお香の付喪神。良い展開には匂いもまた必要。
うちとそち、男女の遊戯はすぐには終わらせぬぞ?    そちの魂を奪うのは一苦労しそうだからな」

「悪いがその誘いは断らせていただこう。
貴様は罪無き者を殺した。我輩はその事が頭に来ている。我輩の正義の筋肉で制裁してやる!!!」

乗鞍はそう言いながら、ピリピリと動きづらい身体を一生懸命動かして前に進んだ。



 乗鞍の能力はダンベル。
王レベルで一番の筋肉を持つ男。
簡単に言えば、筋トレをすればするほど威力の上がり防御力が上がる。自己強化系の能力。
それが彼の能力である。
足を鍛えるならスクワット、腕を鍛えるならダンベルなど…鍛える場所は様々なのだ。
かっこいい必殺技や武器などない。
拳のみで戦う。

そして今回、彼はダンベルを取り出すと筋トレを始めたのだ。

「フンッ、フンッ、フンッ!!!」

乗鞍は持ったダンベルを上下に動かす。
肉体から流れる熱い汗。
その様子を見て死神姫は勘違いをしたようだ。

「何を遊んでいるの?
自身を疲れさせて睡魔から逃げる気なの?」

「何を言うか?  これは見ての通り筋トレだぞ。筋トレとは何時何処でも行わなければならない。筋肉に負荷をかけて己を鍛え成長する。
つまり、筋トレとは人生と同じなのだ!!!」

「その心はうちには分かりませんな。貴校が筋肉バカにしか見えません。しかし、うちのお香で眠らんとはさすが王レベルとでも言いましょうか。
ですが、魂を取り出す時に生きたままとは……なんとも無惨でありますわ」

死神姫は懐から新しいお香を取り出し、匂いを周囲に拡げる。
今度のお香は先程よりも効果がある物だ。
お香の甘いような蕩ける匂いは周囲に拡がっていき、空気と混ざりながら乗鞍へと迫ってくる。

「ほら、我慢しなくていいのです。素直になりなさい。眠りたいなら眠るのよ。気持ちを楽にして~」

近づいてくる死神姫。
その度にお香の匂いと効果が強くなっていく。
それでも乗鞍は筋トレを怠ることはなかった。

「何故?  そういう体質なの?  最初のより10倍くらい効果がある物なのよ?」

死神姫はお香が効いていない事に驚く。
すると、乗鞍は持っていたダンベルを地面の上に落とす。
ダンベルは隕石が地面に落ちた時のクレーターのように地面を凹ませる。
そして、現れたその姿は先程までとは違う膨大な人間場馴れした筋肉の漢。
最初のマッチョな男以上の筋肉量である。

「この自己強化は数分間しか使えない。だからお前が散るか、我輩が眠るか。勝負といこうじゃねぇか?」

乗鞍は自身の拳を握りしめて、思いっきり死神姫に殴りかかる。
例え、相手が女性でも敵ならば殴る。
罪無き者達を守るため。
これ以上、魔王軍に好きにさせないため、漢は戦う。

「慈悲無き鉄槌(マーシレス・ハマー)『ただの殴り』。」

乗鞍は向かって来た死神姫に怒りの拳を喰らわせた。



 死神姫の身体は拳が当たった瞬間に弾け飛び。
彼女の上半身しか残らない。

「はぐぁ……」

泣き叫びたいが、痛みのせいでそれどころではない。
その瞬間、彼女がふと見たのは自身の走馬灯。



 コウモリ通りで働いていた頃、愛してくれた一人の男。
この関係がずっと続くと願ってた。
しかし、遊女は普通の客と遊女の関係では収まらず、駆け落ちしようと店を逃げていた。

「普通の恋や普通の暮らしを送りたい。他人とではなくあなたと過ごしていきたい」

2人はそう考えたのだ。
だが、逃げても捕まる事もある。
それでも遊女は逃げたかった。
この誘惑と快楽と無慈悲と策略に充ちたこの店々から……。
だが、現実は非常である。
追っ手に見つかってしまったのだ。
沢山の追っ手に囲まれる2人。
その時、2人を囲んでいた追っ手の首が飛ぶ。
身体からは血が噴水のように飛び散り、2人に返り血を浴びる。

「「はわわわ!?」」

「怯えることはない。私の名はブロードピーク。君たちを解放してあげよう」

そう言いながら月に照らされ現れたのは、藍色の髪を靡かせた男か女か分からない者。

「あっ………あなたは何故私たちを助けてくれたのですか?」

「そうだよ。怯えることはない。私は君達に力を与える者」

ブロードピークは男女の質問に優しく答えてあげた。
男女は安心しきった表情でブロードピークを見つめる。

「もしかして、ここから逃げ出す力をくださるのですか?」

「ああ、ただし、条件がある。
君達には魂を回収する役目を受けてほしい。上司から言われているんだよ。
あと、鍵の獲得候補者の処刑。
できるかい?」

「勿論です。」

「よろしい、今から君達には付喪神と契約してもらう。
もしかしたら、いずれ暴走するだろう。
でも、私の力なら自我を保つことが出来るようになる。これがギバーズの実力さ」

「「ありがとうございます。絶対に失望させませんから」」

こうして、走馬灯は終わった。




 目が覚めると足が動いてくれない。
上半身と下半身が離れているからだ。

「う……うちは負け………てない。ブロードピーク様に捧げるんだ」

死神姫は地面を這いながら、足を再生させようとする。
このままでは足が再生してしまい、死神姫が復活する。
だが、乗鞍は先程の攻撃の反動で動くことができない。

「まずいな……」
「貴校は殺す……例え相討ちになったとしても殺す。貴重な強者の魂を回収するために…………」

死神姫の足が再生しきってしまい、彼女は立ち上がることができた。

「ふひひひ、うちは死神姫。貴校の命は頂戴します」

死神姫はそう言うと、自身の手をチョップの形にして乗鞍の頭に乗せる。
どうやら、乗鞍の頭を叩き割るつもりのようだ。
だが、乗鞍は逃げることができない。
下半身を塵になるほど吹き飛ばしたパンチは最早効果がなかった。
このままでは負けてしまう。
あの小さい腕から放たれるチョップによって頭蓋骨をかち割られてしまうのだ。

「うちのために死になさ~い!!!」

死神姫は慈悲もなく手をあげると、逃げられない乗鞍の頭に向かって振り下ろす。



 スパッ!!
その瞬間、死神姫の身体に斜めの線が入る。
美しい斜めな線。

「あっら!?」

そして、ズレ落ちる死神姫の上半身。
その後ろには大鎌を持った1人の女性が立っていた。
その正体は死神さん。

「さようなら、もう一人の死神。せめてあなたにも良い夢が訪れますように」

死神さんは彼女の死を悲しみ哀れみを込めた目で死神姫を優しく見つめる。
死神姫は自身の身体を再生させようとするが、大鎌で斬られた部分が再生しない。

「糞、糞、糞、うちはまだ恩返しをしきれていないのに……。呪ってやる死神。呪ってやる王レベル。呪ってやる世界。貴校らは絶望する無慈悲な死を遂げるのだ…………………」

死神姫はそう言うと動かなくなってしまった。



───────────────

朝が来る。
ピンクムーンの空間は消えて、これで少しはこの通りも安心して過ごせるだろう。
コウモリ通りは今宵のお勤めを終えて、次の夜に向けて準備をする。
何事もなかったように朝日は王レベルと死神を照らしてくれていた。
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