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「お会いしますか」
らくは遊女が空になった盃に酒を注いでほしいかとたずねるかのごとき軽い調子で聞く。
伊兵衛は即座に答えることができない。
弟弟子の非道、師は病死ではなく殺されていた、真実を求めたがために知りたくなかったことを知ってしまっている。
正直なところ、智徳に会うことに対し臆する心持ちが生じていた。
と、そこへ、
「もし」
と部屋の外から遠慮がちな声がきこえてくる。声音からしてみきだ。
「はい」
「謝りに参りました。面目次第もないため、このままで失礼します」
伊兵衛が応じると、みきがかしこまった口調で応じる。
「まことに申し訳ありませぬ」
こちらがなにかを告げる前に、「ただ、それだけでございます。それでは」と言い残しみきの気配が部屋の前から遠ざかっていった。
伊兵衛は思わず吹き出す。
みきの一途だが不器用な行動がおかしかった。
今の言動のせいで、門徒に捕まって心配させられたことへの怒りはきれいに雲散霧消する。
そう、彼女は自分のために必死に行動してくれたのだ。
そんな思いを抱いた瞬間、伊兵衛の脳裏にひらめくものがあった
自分のことを一心に思ってくれれいた師が、弟子のためにならぬことをわざわざ死の間際に告げるだろうか。
否。否だ。そんな訳がない。
「会います」
声を殺して、みきと伊兵衛のやり取りを笑っていたらくが、唐突な返答に一瞬目を丸くし、すぐに微笑をとり戻して、
「それでは参りましょう」
と応じた。
らくは遊女が空になった盃に酒を注いでほしいかとたずねるかのごとき軽い調子で聞く。
伊兵衛は即座に答えることができない。
弟弟子の非道、師は病死ではなく殺されていた、真実を求めたがために知りたくなかったことを知ってしまっている。
正直なところ、智徳に会うことに対し臆する心持ちが生じていた。
と、そこへ、
「もし」
と部屋の外から遠慮がちな声がきこえてくる。声音からしてみきだ。
「はい」
「謝りに参りました。面目次第もないため、このままで失礼します」
伊兵衛が応じると、みきがかしこまった口調で応じる。
「まことに申し訳ありませぬ」
こちらがなにかを告げる前に、「ただ、それだけでございます。それでは」と言い残しみきの気配が部屋の前から遠ざかっていった。
伊兵衛は思わず吹き出す。
みきの一途だが不器用な行動がおかしかった。
今の言動のせいで、門徒に捕まって心配させられたことへの怒りはきれいに雲散霧消する。
そう、彼女は自分のために必死に行動してくれたのだ。
そんな思いを抱いた瞬間、伊兵衛の脳裏にひらめくものがあった
自分のことを一心に思ってくれれいた師が、弟子のためにならぬことをわざわざ死の間際に告げるだろうか。
否。否だ。そんな訳がない。
「会います」
声を殺して、みきと伊兵衛のやり取りを笑っていたらくが、唐突な返答に一瞬目を丸くし、すぐに微笑をとり戻して、
「それでは参りましょう」
と応じた。
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