【改稿】剣鬼の牙が抜けるとき(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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10・了

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● ● ●

 白刃が闇に煌(きら)めいた。だが、それが己が身に届くことはない。
 なぜなら、遠くからそれを眺めていたからだ。
 ふるわれる剣は余人が捕方に対してあやつるもので俺の大刀ではない。塾にいる小人目付の友人の忠告にしたがった結果が、これだった。
 藩邸で従兄に斬られかけたのも、仇討を止めると申し出たがためだ。家の存続の道を断つなど言語道断とそれで従兄は怒った。
 従兄だけではない。元々、地下御前試合に俺を誘った仲介役のやくざ者にも「もはや、試合に出るつもりはない」とつたえたところ匕首(あいくち)を抜かれて殺しこそしていないけれど手荒な真似をすることになった。それだけ、己が罪深い場所に身を沈めていたのだろうと、思う。
「村瀬」とふいに叫ぶ声が聞こえた。地下に御前試合の場がある大店のほうからだ。
 天水桶の陰からすこし顔を出し俺はそちらをうかがう。
「村瀬義益、仇であるわしはここにいるぞ。勝負いたせ、わしはおまえと剣を交える日を心待ちにしていたのだ」
 無数の御用提灯の灯りに照らされながらも、目を血走らせて叫ぶ姿は荒ぶる悪鬼を思わせた。確かに、その顔貌は仇のそれと一致していた。だが、俺は動かない。無数の捕方が突棒(つくぼう)、袖搦(そでがらみ)、刺叉(さすまた)などを駆使して苦戦しながらも仇を捕えるのを遠くから注視した。
 俺が手を下さずとも、あやつは奉行所によって裁かれる。ならば、それでいい。
 家を存続させることにこれ以上、人の命を奪ってまで成し遂げる意味を感じなくなっているためだ。
「おぬしの仇、町方に御前試合のことを訴え出た母子を斬ったらしい」
 側に朋友の小人目付の朋友、市右衛門が来て吐き捨てるように告げる。腹に据えかねて当然だ。
 あやつには武士を捨てれば剣しか残らなかった。なれど、俺にはそれでも残るものがある。
「最後まで見届けずともよいのか」
 よい。友の言葉にそう答え、俺はその場を離れて歩き出した。進むべき方向は分かっている。
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