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 大事がないというならそれほどに苦しまないはずだ。
 神(デウス)が膨大な人数が生きる人間すべてを見捨てないというならこの世は生者であふれ返っているはずだ。
 それでも患者は死の淵にあってつかむべき藁を求めている。それゆえに在昌の励みに、励まされた、救われた、という顔つきをする者もいた。
 あるいは己の死を従容として受け入れ、
「わが子息に父は勇猛に戦ったとつたえてくだされ」
 と透徹としたまなざしで告げる武士もいた。
 高潔な態度をしめそうと、生きたいと醜いほどに執着を見せようと、分け隔てなく命を落としていく。
 生きた者の数が減り、段々と屋内は静かになっていった。
 だが、うめき声を耳にするよりも死がもたらす静寂のほうがはるかに耳に痛い。
 陽が顔をのぞかせ光が世界に広がるのよ反比例するように在昌の心持ちは沈んでいった。
 そこへ、
「ここにおられましたか、伊留満(イルマン)マノエル」
 アルメイダが姿を現す。しきりに冗談を口にするということが後世にまで民間伝承としてつたわる男だ。しかし、今はその顔に厳粛な表情を浮かべていた。
 命の恩人の登場、けれども在昌の顔には苦渋の表情が浮かんでいる。
 もっと、早(はよ)う足を運んでくだされば――そんな思いを抱いたのだ。
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