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「それで気鬱をひどくし、亀太郎は切腹したと?」
 小平次の問いかけに、
「それ以外に考えられない。亀公が妹を残して死ぬ理由なんか」
 と吟は声をふるわせて応じた。
 先ほどから浮かべている口惜しげな顔つきは自身の屈辱から出たものではなかったのだ。死へと追いやられた亀太郎のことを慮ったゆえの表情、そういうことなのだろう。
 だが、ふいに吟は気の抜けたようすを見せた。
「けれど、いたしかたありません、お頭。あたしらは忍び。無念の死もまた宿命」
 そして気づかわしげな笑みをこちらに向ける。
「だから、お頭もあたしが邪魔になったら躊躇いなく切り捨てなよ」「できません」
 小平次の声が小さかったせいで、え、と吟は小首をかしげた。
 小平次は語気を強めて言葉をかさねる。「できないといっています」
「聞き分けのないことをお言いでないよ、お頭。忍びは」
「それは家中に仕える忍びのことでしょう、お吟」
 すこし怒ったような顔になる吟の声を、小平次は途中でさえぎった。
「主家はもはや有りません。つまり、手前らのありようを決めるのは家中ではなく、手前ら自身です」
 小平次のせりふに、吟はあっけにとられた表情を浮かべている。
 上に立つ小平次はともかく、吟にしてみれば最終的に「お頭の言いつけにしたがう」という藩士であったころの習慣に縛られていた。だから、改めて自分の立場について深く考えることもなかったのだろう。
 それゆえに真実を明かされた結果、今のようにぽかんとした表情を浮かべる仕儀になったのだ。
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