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あるいは考えないようにしていたのだろうか――恐ろしい現実から目をそらしていたのかもしれない、そんな思いを小平次は抱く。
それでも忍びとして器用な手先を持つために、考え事をしているうちに黒鯛を捌き終わった。切り身をあらかじめ用意しておいた熊笹を重ね合わせた上に載せる。できたと吟に告げると、彼女は億劫そうに身を起こした。
「さあ、食べよう」とうながすが、吟は手を伸ばそうとしない。何か考え込むような表情を浮かべていた。
「お頭、お伝えしておきたいことがあります」
「なんですか?」
改まった物言いに小平次はどこか嫌な予感をおぼえる。亀太郎のことです、とあきらかに風邪とは違った理由で吟は眉間に皺を寄せた。
「実は江戸の繁華な場所であたしらは庄右衛門のやつに出くわしたんです」
吟の言葉に、小平次は記憶を手繰る。
庄右衛門といえば父親が抜け忍となった、吟と同世代の家中の者だ。表向きは忍び働きの最中に病死したと届け、跡を継いでいた。
ただ、色香に惑って家中を捨てた男の息子と随分と冷たい目を向けられていた、とまだ家中のつながりをぼんやりとしか理解できない頃の小平次ですら理解し記憶している。その後、母や下男を殺害し出奔したはずだ。
「あいつ、どこで仕官の口を見つけてきたのか、暮らし向きは悪くなさそうでした」
「それで?」
悔しげに顔を歪める吟に小平次は先をうながす。
「あたしらは、あいつに散々に莫迦にされました。『野垂れ死にせぬよう留意せよ』とまで言われ」
ここまで聞いて、なにゆえ今さら吟が亀太郎について明かそうとしたか小平次は理解した。
それでも忍びとして器用な手先を持つために、考え事をしているうちに黒鯛を捌き終わった。切り身をあらかじめ用意しておいた熊笹を重ね合わせた上に載せる。できたと吟に告げると、彼女は億劫そうに身を起こした。
「さあ、食べよう」とうながすが、吟は手を伸ばそうとしない。何か考え込むような表情を浮かべていた。
「お頭、お伝えしておきたいことがあります」
「なんですか?」
改まった物言いに小平次はどこか嫌な予感をおぼえる。亀太郎のことです、とあきらかに風邪とは違った理由で吟は眉間に皺を寄せた。
「実は江戸の繁華な場所であたしらは庄右衛門のやつに出くわしたんです」
吟の言葉に、小平次は記憶を手繰る。
庄右衛門といえば父親が抜け忍となった、吟と同世代の家中の者だ。表向きは忍び働きの最中に病死したと届け、跡を継いでいた。
ただ、色香に惑って家中を捨てた男の息子と随分と冷たい目を向けられていた、とまだ家中のつながりをぼんやりとしか理解できない頃の小平次ですら理解し記憶している。その後、母や下男を殺害し出奔したはずだ。
「あいつ、どこで仕官の口を見つけてきたのか、暮らし向きは悪くなさそうでした」
「それで?」
悔しげに顔を歪める吟に小平次は先をうながす。
「あたしらは、あいつに散々に莫迦にされました。『野垂れ死にせぬよう留意せよ』とまで言われ」
ここまで聞いて、なにゆえ今さら吟が亀太郎について明かそうとしたか小平次は理解した。
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