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 その胸中には確かに長子を殺された憎悪もある。だが、それ以上に強い感情が存在した。それは、
 我が一族の名はきゃつによって貶められた――。
 というものだ。
 どこかの領地への潜入の最中ならばともかく、曲者が相手とはいえよりによって国元で息子は死体をさらすこととなった。しかも、内々に始末できなかったため、その事実は家中に知れ渡ってしまったのだ。
 なんだ、忍びといってもたいしたことがないではないか――爾来そんな視線が、権座衛門についてまわることとなった。
 それは彼にとって耐えられない恥辱だ。
 忍びなど、所詮は陰の者。家禄も低く、務めを果たしたときの褒賞があってこそ成り立つようなものだった。
 だからこそ、余計に忍びの業への矜持は高い。当世の武家の剣の腕への執着に比べれば、天と地ほどの開きがあった。
 しかし、それが粉微塵にぶち壊されたのだ。みずからの失敗りではなく、息子とはいえ他人の所為で。
 こんな理不尽があっていいものか――だからこそ、権座衛門は平太たちを追う。
 周太の顔に地肌が見えなくなるほど泥を塗るために。

   二

 その後、平太たちの姿は山中にある一風変わった集落に見られた。
 まず家屋が木造ではない、天幕だ。住民たちも、獣の皮を着物としたものに身を包んでおり田畑を耕して生きてはいない。
 一般に“山の民”などと呼ばれる化外の民の集落に平太たちは身を寄せていた。
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