渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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「おいたわしや、若様」
 思わぬ挙動に、大人たちは唖然となる。が、源太郎丸だけは違った。一瞬、あっけにとられたものの、
「泣くな、吉兵衛。おいらは大丈夫だ」
 と彼を慰める。だが、それがかえってさらに吉兵衛の涙を引き出した。
 彼が泣き止むまでに時間がかかり、旅の一行は辟易とさせられる。まったく、とんでもない者が仲間になったものだった。

    三

 記憶の中の父、平次郎は一度として平太と顔を合わせようとしなかった。
 三つか四つの齢のころだったろう。平太は村のおとなの忠告を聞かずにひとりで勝手に集落からそう遠くないところにある川辺へと遊びに行った。内向的だった平太は「おまえ、つまらない」と村の子どもたちからは仲間はずれにされていたのだ。
 お供といえば一匹の犬だった。優しげなまなざしをしていた。
 平太は桃太郎にちなんで“桃”と名付けていた。お供のはずが、その主の名をつけるのだから今考えればおかしな話だが、当時は別段違和感をおぼえることもなく桃と得意がって呼んでいた。
 名を呼べば自分のほうを見てくれることがうれしかったのだ。
 そんな桃とともに、川岸に立つとなんだか自分が鬼退治にでも来たような気分になる。もしかすると、川には河童の一匹や二匹はいるかもしれない。
 それでも怖いとは思わなかった。
 桃、と平太は呼んだ。すると、桃がこちらを「どうかした?」とばかりに見やる。そのまなざしに心強さを感じる。ただ、それが慢心につながった。
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