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「御庭番がなんでおいらを狙うのさ」
「源太郎丸様、あやつらは悪辣な御庭番なのでございます。みずからの職分を利用し、知りえた事柄をもとにして諸家を脅しては金を受け取る、さような真似をいたしておるのでございまする」
「でも、それじゃあ御公儀の咎め立てがあるだろう?」
 吉兵衛の言葉に源太郎丸は首をかしげる。
 他方、吉兵衛の言葉使いや先ほどの紋のせりふから、平太は源太郎丸の正体に当たりをつけつつあった。おそらくは大名の隠し子――跡継ぎを巡る争いに巻き込まれている、というのが真相だろう。
 ただ、重大な事実にもかかわらず、今の平太の頭からはともすると抜け落ちそうだ。御庭番、と胸のうちでつぶやく。
「弱味を握られた上、相手は御庭番、御公儀に訴え出るわけにも参りませぬ」
「そんなのあんまりじゃあ、ないか」
 明かされた真実に、吉兵衛が声を高くして抗議した。
 あんまり、か――理不尽なことなどめずらしくともなんともない、平太は冷え冷えとした感情を抱く。
 が、その感情が吹き飛ぶ出来事が起こった。突如として吉兵衛が滂沱の涙を流したのだ。
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