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 それまで、平太がいくら自分の剣の業前はどうなのかとたずねても曖昧な声ではぐらかしていたというのに突然にそんな言葉を発した。さらには、
「お前はみずからを信じることができていない。だから、“硬い”」
 とものべる。
 平太はひそかに剣で身を立てることに希望を抱くようになっていた。
 だから、初めて師が口にした評価が自分を否定するものであってことに、目の前が真っ暗になる衝撃をおぼえたのだ。

 そこで、目が覚めたのだ。
 結局、それからすぐに叔父は病を得て鬼籍に入ってしまい評価を覆すことはできなかった。
 その事実は、平太が“煮え切らない”でいることの一因をなしている。
 ただ、今日ばかりはそれそらも軽く受け止められていた。太陽が大地に投げかける光もどこか眩しさを増している気がした。
 目を細めた平太に、おめえ、と旅立って数刻後初めて己之吉が声をかけてくる。
「へえ、なんでありやしょう?」
「暢気に構えてやがると手痛い目に遭うぜ」
 冷水を浴びせかけるようなせりふを己之吉は口にした。文句を言う訳にもいかず、
「気をつけやす」
 平太は首をすくめてみせる。内心は、
 口を開いたと思ったら、それか――。
 と思っていたが。しかし、ちょうどいいとも思った。
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