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 あれは、十代の前半のころの記憶だった。
 叔父のもとに通って剣術を習うようになり、ほかの門弟――といっても、百姓ばかりだったが――を抜き去って頭角を現したのだ。貧しく、自前の田畑すらない、そんな水呑み百姓の倅の平太にとって初めて得た“他人に誇れるもの”だった。
 彼の目付、他人の挙動の起こりを察する技術は中々のものだ。
 攻撃が起こる前にどんなふうに相手が動くかを察し、“間”を盗んで打ち込み、あるいは一撃を躱して反撃し、と師以外に対しては向かうところ敵なしだった。だから、とにかく熱心に取り組んだ。来る日も来る日も木剣を必死にふり、型をくり返し、あらには何度負けても立ち合い稽古を叔父に頼んだ。
 そしてこの日も、誰よりも遅くまで残り叔父と袋竹刀を手に向かい合っていた。
 だが、このときも一本も取れないままに敗北を重ねていた。
 門弟たちと違って、叔父の動きは“見えない”のだ。当人の言葉を借りると、「動きを“消して”いる」という。
 お陰で目付が通じず、一方的に小手や胴や脛を打たれ通しだった。
 しかし、平太はめげない。何度負けても叔父が止めだと言い出すまで挑みつづけるのが常だった。
 そんなふうにして全身を打ち身だらけにした平太に、
「お前の剣には迷いがある」
 叔父はふいに告げたのだ。
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