上 下
22 / 159

22

しおりを挟む
 それより、自分が祖母の死に安堵をおぼえたことのほうがこたえた。
 情で側にいるのではないとわかっていたが、それでもやはりはっきりとそれを確認してしまうと、いったい自分はどれほど父と違うのかと思ってしまう。
 けども、と心のうちでつぶやきながら平太は祖母の側らにひざをついてその死に顔を見つめた。
 とても安らかな表情には見えない。地獄の亡者もかくやという顔つきだ。
 正しく生きねば罰が当たる、と孫に言い聞かせていた祖母だったが、
 それが最期はこの様(ざま)か――。
 平太の正直な感想がこれだった。
 猪には教えられた気がする。人の定めた“正しさ”など所詮はこの程度だと。
 百姓の習いなど無視して水呑み百姓の暮らしなど捨てて江戸にでも出ていれば祖母はこんなふうに死なずに済んだろう。なんだか肩をそびやかしたい気分だ。そんなことをすれば寄ってたかって非難されるのは目に見えているから我慢するが。
 そこに、
「平太、婆さまを殺(や)った猪を捕まえたぞ」
 という声が外から聞こえてきた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢から『薬屋』に転職しました!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:74

引きこもり侍始末(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:2

ソシオパスな私〜反社会性パーソナリティ障害を克服するまで〜

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

異世界最速の魔王討伐 ~転生幼女と美少女奴隷の隠されたミッション~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:95

転生したなら、平和に過ごすっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1

無責任でいいから

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:893

処理中です...