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 各地の豪族の子弟を兵として駆り出す健児(こんでい)制を採用したものの、それは結句のところ、武家の家の台頭を招く一因となった。そもそも貴族が陣頭指揮を執ることを止めてしまえば、つまるところ兵を操る者は武士ということになる。要するに、公家は武力を放棄してしまったのだ。
 死の穢れを極端に恐れる余り、当人たちにとってはそれ以上の災いとなる事態を招いた。既にそこでつまずいておったのだ――久脩は思う。
 白河法皇など、権勢を武士から取り返さんとした者たちはいたが、それも長くは続かない。一度起こった流れを止めることはできなかったのだ。その後、鎌倉の幕府は滅び、室町の公儀もまた力を失っている。
 世とは移ろうものなのだ。当たり前のことなど存在しない。
 足掻いてみたところで無駄――この世界で渦巻く運命の流れは余りに巨大だ、人間の一掻き、二掻きなどあって無きがもの。
「殿下(近衛前久)のせいで」
 考えないようにしていたことがとめどなく溢れてくる、そのことに久脩はいらだちをおぼえた。どうにも眠れない。
ひとつ嘆息し掛け具を撥ね退けて立ち上がり、濡れ縁へと歩を進めた。
屋根に視界を狭められても、夜空に広がる無数の煌めきを隠しきれるものではない。青白いなかに、時折混ざる赤い輝き、どちらの星も玉や翡翠など比べものにならない美しさがあった。
 おそらく、約五百年前の晴明様も同じ空を見ていたのだろう――。
 そう考えると不思議な心持ちがしてくる。顔も見たことのない、声も聞いたことのない、伝説に彩られた先祖と、間接的ではあるがつながっているのだ。
 曰く言いがいたいが、それは凄まじいことに感じられる。そんなふうに夢想するのが久脩の癖のようなものだった。安倍家の末、土御門の人間として夜空を見上げることはかつて修行だった、そのなかでその儚い輝きに惹かれるようになったのだ。
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