信長、秀吉に勝った陰陽師――五色が描く世界の果て(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 主上でもあるまいし、公家が世を操ろうなど狂っているとしか思えぬ――。
 京(みやこ)の旅宿としている“近衛殿”に帰った久脩は胸のうちでつぶやく。父が縁戚を理由に借りているのに倣って久脩も洛中の宿としたのだ。といっても、乱世の混乱で邸宅は大きく損なわれており無事な部分をもちいているに過ぎない。普段は所領である若狭国名田荘に下向して暮らしているため、別段それで構わなかった。ちなみに、家主である近衛前久は羽柴秀吉の京屋敷に依拠している。
 刻限は既に夕餉を終え、みなが寝静まる頃へと達していた。
 だが、かような折でも日の本六十余州では必ずどこかで誰かが干戈をまじえている、そう考えると不思議なようなたまらないような気分をおぼえた。
 公家という存在のなんとちっぽけなことか。
 京や、あるいは領地にへばりつくようにして汲々と生きている、農人のごとく作物を作るでもない、漁師のごとく魚を捕るでもない、杣人(そまびと)のごとく木を伐り出すでもない、武家のごとくそのような者たちの暮らしを守るという名目すらない、ただただ無為に生きる者たち。
 そんな現状に不満を抱く近衛前久の存念も分からないでもない。
 だが、
 それができるのなら、誰ぞがとうにやっておろう――。
 という冷めた感情が久脩にはあった。思えば、諸国の民を兵として集めることを止めた瞬間から、公家の凋落は始まっていたのだ。
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