直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 八戒の肩に棒手裏剣が突き刺さっている――それでも、彼は手をゆるめることなく鉄耙をふるっている。
 俺の失敗(しくじ)りだ……――三蔵の胸に悔しさと罪悪感がこみ上げた。師父のことを知りたいという思いに、自分は判断力を鈍らせたのだ。
(こうなったら――)
 自分が鏢で敵を牽制しながら、仲間を逃がすしかない。
 おそらくは三蔵は死ぬことになる……、それでも大事な人間を逃がすことができるのなら、そんなふうに考えたところで――
「大部安兵衛推参、下郎共、覚悟せよ!」
 具足姿の武士が乱波たちの間に切り込んできた。低い姿勢から、大きな孤を描く新当流独特の袈裟斬りが黒装束の対手に肩口から腰まで届く深い致命傷を与える。
 閃、閃、閃、闇に白刃がきらめいた。抵抗も、避ける間もなく乱波たちは斬られる。
 ――そこに、完全防備の士卒たち約四〇人がつづいた。
 刀槍がひらめき、敵を次々と屠る。
 完全な劣勢を悟った敵は棒手裏剣を投じながら身をひるがえす遁走に入った。
 ――背後から破砕音が響いてくる。
 ふり返ると、お堂から甚助が姿を消していた。その場に残っているのは、肩で息をしている金角と銀角、悟浄のみだ。
 ……そして、紅孩児もいなくなっている。その事実が、三蔵の胸をざっくりと裂いた。

      ● ● ●

 乱波を追い払った後、三蔵たちは荒れ寺に駆けつけた賢兼に事情の説明を求められた。
 師父との完全な決裂、紅孩児の離反、死闘……これらを経た自分たちに都合のいい嘘を突き通すような気力は残されていない、三蔵はそう判断し素直にすべてを明かす。
 これに対し、
「大儀であった」
 の賢兼が告げたのはこの一言のみだ。
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