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刹那、八戒の鉄耙が風を巻いてまわった。颶風と化した得物が複数の棒手裏剣をことごとく打ち落とす。
防御しながらの防御に八戒の駆ける速さが鈍った――代わりに、彼の影から悟空が飛び出した。七間(十二・六メートル)の距離をまたたく間に詰める。間合いに踏み込んだとたんに見舞った上段の一撃が、対手の頭蓋を打ち砕いた。
こちらを包囲する陣形の一角が崩れたところで、八戒の影から姿をあらわした三蔵が鏢をたてつづけに放つ――乱波が逆に飛び道具に襲われるという状況に、彼らは攻撃を避けきることができない。闇にかすかに光っていた眼球が刃物でつらぬかれた……
敵の数はざっと二〇人、それが十六人に減る。
が、敵も修羅場をくぐり抜けてきた乱波だ――動揺することなく、手裏剣を投じた。それで八戒の前進が完全に止まった。
三蔵が反撃の鏢を投擲するが、お堂のまわりの木立の陰を利用してそれを避ける。
距離を詰めた悟空が対手を追い回し孤軍奮闘するが、次々と屠るというわけにはいかない。
このままじゃ、じり貧……――三蔵はちらりとお堂の方を肩越しにふり返る。
こちらも旗色はかなり悪い。三対一にもかかわらず、悟浄たちは師父を前に圧倒されていた。遠目だが、おそらくは微傷をいくつも負わされ、今にも致命的な斬撃を受けそうに見える……
「――ぐっ」
小さくくぐもった苦悶の声に、三蔵は視線を前に戻した。
防御しながらの防御に八戒の駆ける速さが鈍った――代わりに、彼の影から悟空が飛び出した。七間(十二・六メートル)の距離をまたたく間に詰める。間合いに踏み込んだとたんに見舞った上段の一撃が、対手の頭蓋を打ち砕いた。
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このままじゃ、じり貧……――三蔵はちらりとお堂の方を肩越しにふり返る。
こちらも旗色はかなり悪い。三対一にもかかわらず、悟浄たちは師父を前に圧倒されていた。遠目だが、おそらくは微傷をいくつも負わされ、今にも致命的な斬撃を受けそうに見える……
「――ぐっ」
小さくくぐもった苦悶の声に、三蔵は視線を前に戻した。
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