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対練套路が終わり、ふたりは距離を置く。
ただし、彼らの顔には以前兵法に取り組んでいたときの晴れやかさはない。それはまわりにいる仲間たちも同じだ。
もはや、三蔵たちを虐げる人間は集落にはいなくなっていた。住人全員が農具を得物に襲いかかってきたところで、彼らにはかなわない。
だから、身を守るためという動機はすでに無効だ。
そして、師父に自分たちの成長ぶりを見てほしいという気持ちも、甚助がいなくなってしまった今、存在しない。
ただ惰性で、漁などの仕事の合間に三蔵たちは兵法の稽古を行っていた。
(師父、俺たちはどうすれば……?)
三蔵はもどかしい思いを抱きながら、日々を無為に生きている。
だが、そんな彼らを変える出来事があった。
ある日、浜に朝の稽古のために浜に出ると、水際に倒れている人影がある。
近づいてその正体を確かめた三蔵たちの顔に緊張が刷かれた――
「倭人……」
対手の装(なり)――茶(ちゃ)せん髷(まげ)、小袖に裁付袴(たっつけばかま)、腰にさした大小などからその正体がわかる。話に聞いていた倭人の格好と一致していた。
緊張した面持ちで、三蔵たちは倭人を半円状に囲んでいる。
――と、対手が「う、うん」とうめき声をもらした。
そしてうっすらと眼を開く。
彼の眼が周囲に人間がいる事実を認めた。
「た、助けて、くれ……」
そう言葉をもらすや、また気を失う――
……、と三蔵たちは無言で困惑をあらわに互いに視線を交わした。
どうする? と意見を求める。
ただし、彼らの顔には以前兵法に取り組んでいたときの晴れやかさはない。それはまわりにいる仲間たちも同じだ。
もはや、三蔵たちを虐げる人間は集落にはいなくなっていた。住人全員が農具を得物に襲いかかってきたところで、彼らにはかなわない。
だから、身を守るためという動機はすでに無効だ。
そして、師父に自分たちの成長ぶりを見てほしいという気持ちも、甚助がいなくなってしまった今、存在しない。
ただ惰性で、漁などの仕事の合間に三蔵たちは兵法の稽古を行っていた。
(師父、俺たちはどうすれば……?)
三蔵はもどかしい思いを抱きながら、日々を無為に生きている。
だが、そんな彼らを変える出来事があった。
ある日、浜に朝の稽古のために浜に出ると、水際に倒れている人影がある。
近づいてその正体を確かめた三蔵たちの顔に緊張が刷かれた――
「倭人……」
対手の装(なり)――茶(ちゃ)せん髷(まげ)、小袖に裁付袴(たっつけばかま)、腰にさした大小などからその正体がわかる。話に聞いていた倭人の格好と一致していた。
緊張した面持ちで、三蔵たちは倭人を半円状に囲んでいる。
――と、対手が「う、うん」とうめき声をもらした。
そしてうっすらと眼を開く。
彼の眼が周囲に人間がいる事実を認めた。
「た、助けて、くれ……」
そう言葉をもらすや、また気を失う――
……、と三蔵たちは無言で困惑をあらわに互いに視線を交わした。
どうする? と意見を求める。
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