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「――助けようぜ」
紅孩児がぽつりといった。その顔には真剣な色が浮かんでいる。
「俺たちだって、赤の他人の甚助に助けてもらっただろ?」
彼は仲間をみまわした。
「だけど、こいつ倭人だろ」
悟空が複雑な表情で反駁(はんばく)する――いつも歯切れのいい彼にしては語気が弱い。
倭人だろ、という言葉には「倭人ってことは、倭寇の一味ってことだろ」という意味が隠されている。
それは、紅孩児以外の仲間の総意でもあった。
「倭寇かもしんないけど、俺たちの親父じゃないだろ」
口するのさえ嫌な「倭寇」という言葉を強調し、紅孩児は云いつのる。
「なあ、三蔵、悟浄、悟空――」
彼は仲間ひとりひとりの名前を呼んで顔をのぞきこんでいった。
――積極的な反論の言葉を持たない三蔵たちは、それで押し切られる。
彼らは甚助の庵に倭人を運び込み介抱した。
濡れていた着物は、甚助のものに取り替える――それは漢服ではなく、小袖と裁付袴だ。彼が残していった荷物のなかにあったものだ。つまり、彼も倭人だったという可能性がある。
どういう由縁があってはわからないが、明に渡ってきて各地で兵法を学んでまわった……
着替えさせた倭人の着物を目の当たりにすると、複雑な気分にさせられた。
紅孩児がぽつりといった。その顔には真剣な色が浮かんでいる。
「俺たちだって、赤の他人の甚助に助けてもらっただろ?」
彼は仲間をみまわした。
「だけど、こいつ倭人だろ」
悟空が複雑な表情で反駁(はんばく)する――いつも歯切れのいい彼にしては語気が弱い。
倭人だろ、という言葉には「倭人ってことは、倭寇の一味ってことだろ」という意味が隠されている。
それは、紅孩児以外の仲間の総意でもあった。
「倭寇かもしんないけど、俺たちの親父じゃないだろ」
口するのさえ嫌な「倭寇」という言葉を強調し、紅孩児は云いつのる。
「なあ、三蔵、悟浄、悟空――」
彼は仲間ひとりひとりの名前を呼んで顔をのぞきこんでいった。
――積極的な反論の言葉を持たない三蔵たちは、それで押し切られる。
彼らは甚助の庵に倭人を運び込み介抱した。
濡れていた着物は、甚助のものに取り替える――それは漢服ではなく、小袖と裁付袴だ。彼が残していった荷物のなかにあったものだ。つまり、彼も倭人だったという可能性がある。
どういう由縁があってはわからないが、明に渡ってきて各地で兵法を学んでまわった……
着替えさせた倭人の着物を目の当たりにすると、複雑な気分にさせられた。
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