直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 身体を普段から鍛えている彼らも、長距離の移動も、甲冑の重さも苦にしている様子はない。
 それどころか、百武の家臣と雑談に興じる余裕さえあった。
「おぬしたちも本格的な戦は、これが初めてであろう。どれ、この保知(やすとも)が戦場で生き残る術(すべ)を教えて進ぜよう」
 賢兼一番の家臣である保知が、厳めしい顔をほころばせる。どうやら、先達としての知恵を披露できるのが嬉しいらしい。
「――下口殿、『年寄りの冷や水』と申す。どうか、こたびの戦は我らに任せていただきたい」
 そこに、近くを歩いていた猪武者――紅孩児と御前試合であたった男が口をはさむ。その顔にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいた。名前を力丸大吉(りきまるだいきち)という。
「これ、わしを年寄り扱いするでない。まだまだ、若造には負けぬぞ」
 そんな彼に、保知はまなじりをつりあげて食ってかかった。
「下口殿、あなた様は我らが殿にとって必要なお人。大吉は年寄り扱いしたわけではありませぬ」
 そこに、悟空と対戦した柳のような長身痩躯の男――渡邊右近(わたなべうこん)が声を割り込ませた。
「なあ、そうであろう? おぬしたちもそう思うであろう」
 彼は三蔵たちに向かってひょうきんな顔で同意を求める。
 ――御前試合からこっち、三蔵たちは賢兼の家臣たちと急速に打ち解けていた。主である賢兼の人徳のなせる業なのか、一度親昵(しんじつ)の間柄となれば気持ちのいい性根の者ばかりで、すぐに三蔵たちのことを受け入れてくれたのだ。
「爺ちゃん、俺怪我したら嫌だぜ」
 紅孩児が表情を曇らせそんなせりふを吐く。
「じ、爺ちゃ――ぷっ」
 それを聞いた大吉が吹きだし、右近も必死に笑いをこらえていた。
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