直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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明の人間らしき人物を見かけて物珍しさから注視したとも考えられなくもないが、実は三蔵たちには半分倭人の血が流れているから外見からは異国人であることは分からないはずだ。
 だとすれば、なぜあの者は自分たちに眼を向けたのか?
 だが、対手は声をかけるには遠い場所に早足に去り、すぐに角を曲がって姿を消してしまった。

(なにゆえ、あの者たちが肥前におるのだ!?)
 三蔵を注視していた男は、早足に飯屋の前から離れながら驚愕の声を胸のうちでもらす――

   第四章

   一

 姻戚関係で龍造寺家一門の『衆(しゅう)』に転化させた江上衆が、耳川の合戦後の大友家の衰退に乗じて筑前、早良郡に進出、特にその陣大(じんだい)(江上家当主、江上家種(いえたね)はまだ若年のため)執行種兼(しぎょうたねかね)の働きによって、龍造寺方の勢力を拡大させた。
 それに危機感を持った大友氏は天正八年(一五八〇年)、本国豊後からも兵を出して、『鬼道雪』こと立花道雪(たちばなどうせつ)、高橋招運らと共に龍造寺方の諸城の攻略にかかった。
 それに対し、『分別も久しければ腐(ねま)る』――名案も実行の機会を失うと意味ないものとなる、という信条を持つ龍造寺隆信は自身が大軍を率いて筑前に出兵した……

 風にはためく龍造寺家の家紋の染め抜かれた指物は、山々の木の葉が一斉に揺れているようなおびただしさだ。龍造寺方の軍兵の数は二万五千。
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