直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 眼にみえない巨人に踏みつけられているような圧力を三蔵は全身に感じた。すべてを見透かされそうな気がした。
 隆信は刀鍛治が刀剣の鑑定を行うような眼差しでこちらのことをしばし無言で見つめる――
 が、ふいに相好を崩した。
「ふむ、よき面構えの者共だ。おぬしたちのような者たちが陪臣となったこと嬉しく思う」
 彼のその言葉に、その場にひかえている近習(きんじゅう)などの家臣たちが声には出さないが気配がざわつく。
「過分なお褒めの言葉、恐悦至極」
 それに側の賢兼が恐縮した様子で応じた。
 うむ、とそれに隆信もひとつうなずく。そして、
「おぬしたちの得物は、日の本の物とは随分と違う面白き形をしておるな?」
 隆信が脇にひかえている小姓(こしょう)が持っている兵器の数々を手にしている扇子で示した。それらは事前に三蔵たちが預けた彼らの物だ。
「たとば、あれ――なにゆえ、あのような形をしておる? 直答を許す」
 彼は悟浄の得物である月牙鏟とさす。
「はっ。確かなことはわかりませぬが、元々は農具だったものに工夫を加えたものだと聞き及んでおります」
「ほう、農具とな?」
 三蔵の返答に、隆信は興味深げな顔つきをした。
「あちらの、三叉の矛(ほこ)を思わせる得物も、元は農具だといわれております」
「ふむふむ、興味深いのぅ」
 こちらの言葉に、屋形はひとつふたつとうなずく。日の本で初めて鉄砲隊を編成しただけあって好奇心は人一倍強いたちらしい。
「したが、なにゆえあの包丁のごとき得物は対で遣うのだ?」
 隆信の問いかけに、三蔵は内心困惑する。
 どうして二刀でもって遣うのか、彼自信も知らなかったのだ。
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