直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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「わかりませぬ。ただ、明の兵法では丈の短き得物は対でもって遣うことが常道とされておりまする」
「ほう、そういえば、おぬしも大部との立ち合いにおいて、近間において二刀でもって応じたと云うておったな」
「はっ、その通りでございまする――」

 三蔵たちの兵器のことから、明の風俗や政治などに話は及び、隆信はこちらの言葉を上機嫌に聞いていた。
 三蔵と悟浄以外の仲間が退屈でげんなりしたこと以外は、対練套路の披露にも屋形は満足し、拝謁は上首尾に終わる――

   二

 三蔵たちは「今日は市が開く日、これを飲食の御足に使うがよい」と金子(きんす)を屋形から賜(たまわ)った。
 軍資金を得た彼らは、喜び勇んで城下の市場町に向かう。
 三蔵や悟浄はその性格から喜悦を面にあらわすことはないが、他の仲間は満面の笑みだ。
「おいおい、喰い放題じゃねえか!」
 自分の分の金子を、革袋をのぞきこんで確認した八戒が嬉しげな声をあげる。
「ったく、てめーは喰うことばっかりだな」
 それに悟空があきれ顔をしてみせた。
「お、お、お菓子を買おう」「そ、そ、そうだな」
 金角と銀角は声を上ずらせ、
「店のお菓子、俺は買い占めちゃうもんねぇ!」
 紅孩児は文字通り飛び上がって喜んでいる。
 そうしているうちに、市場町へとついた――老若男女が行き交い、種々様々な見世(みせ)が商品を並べて売っていた。
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