直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 が、すぐに心を落ちつけた。死ぬことは怖くない、命を落とすよりも辛い出来事を知っているから彼は恐怖に打ち克(か)つことができた。
「両者、かかりませい!」下口の声が戦いの火蓋を鋭く切って落とす――
 紫電一閃、三蔵は手のうちの縄鏢を投擲(とうてき)した。
 大部は慌てずそれを木刀で弾く――そのときには、三蔵は疾駆している。みずからに有利な間合いに詰めるためだ。
 案に違わず彼は四間(七・二メートル)にまで接近することに成功する。
 そこから、懐から取り出した覆いつきの鏢を立てつづけに投じた。まず間違いなく、これで対手は刃を受けることになる――三蔵はなかば勝利を確信する。
 ……が、信じられない出来事が起きた。
 木刀が眼まぐるしく――いや、眼でとらえられない速度で動いて鏢を防いだのだ。かの剣士、源義経は宙から地面に落ちる木の葉を八つに裂いたと伝えられるが、大部はその域に達している。
 ――今度は対手が疾(はし)った。こちらが茫然となっているうちに、己の刃圏(やいばけん)に三蔵を捉える。滑るような動きだというのに嘘のように迅かった。
 剣尖一閃、大部は胴を斬りにくる。三蔵は体を開き、二本の鏢を遣って辛うじて防御した。即座に二本の刃で対手の得物をはさもうとしたが、巧みな太刀さばきで受け流されてしまう。
 ――大部は次の瞬間には木刀をふりかぶる形に移行していた。
 閃、気づいたときには三蔵の視界を眼前に迫った木刀がさえぎっている……
「そこまで!」
 下口が三蔵の敗北を宣言した。
 大部はゆっくりと木刀を引いて手にさげ、ひとつ礼をする。
 三蔵にそれにこたえる余裕はなかった。
 彼は屈辱にくちびるを強く噛んでいる――
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