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 彼は皮鞘で刃を覆った縄鏢を得物として用意している。
 対する士は、若い頃の美男子ぶりを面差しに残した渋い顔立ちの男で、反りのない直刀型の木刀を手にしていた。
(新当流(しんとうりゅう)の遣い手か……?)
 三蔵は声に出さずに対手の流派の正体を推察する。
 ――彼を含め、仲間たちは明の武術の指導をうけた師父とは別に、漂流してきて故郷の漁村へと流れついた日の本の兵法者から、日本語と合わせて、異国(とつくに)の刀術について教えを受けていた。
 ――武術は東国より発する。その東国とは、鹿島、香取の両神宮が鎮座する関東をさす。武甕槌神(たけみかづちのかみ)を祀る鹿島神宮は、神話の時代より始まる歴史を持つ、わが国でも極めて由緒の古い神社である。
 そして、「鹿島の太刀」として伝わる武術もまた、非常に古い歴史を持っている。仁徳天皇の御代に国摩眞人(くになずのまひと)によって編まれた鹿島の太刀は、戦国期初頭に生まれた子孫の塚原卜伝(つかはらぼくでん)により鹿島新当流として創流された。
 三蔵は七間(約十二・六メートル)の距離を置いて、士と向かい合う――彼の飛び道具という得物の特性を考慮しての距離だ。
 とたん、対手の眼が動揺に揺れた――ように思えた。それを誤魔化すように、
「蒲船津城主、百武賢兼が家臣大部安兵衛(たいぶやすべえ)、太刀打ちを少々遣う」
 と名乗りをあげた。
「三蔵」
 三蔵は己の名前を告げるのみという無愛想なものだ。
 それを受け、大部は半身になって木刀を清眼に構える――剣尖を左眼につける。足もとは、戦国の剣の流儀には普遍的な撞木足(しゅもくあし)、敵に対して足を“ソ”の字に構えるものだ。両足が正面に対して四十五度ずつ開いている。
「――ッ」
 三蔵は一瞬、身体をこわばらせた。七間の距離を置いても肌を刺す剣気に戦慄したのだ。
(できる……)
 うめくように、胸のうちでつぶやく。
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