20 / 115
20
しおりを挟む
なぁ、八戒。なんか、お話してくれよ、と紅孩児が寝物語をせがみ、八戒が要望にこたえて西遊記をそらんじていた。
悟空も瓢(ふくべ)の酒でひとり酒宴を開きながら、その話を陽気な顔で聞くとはなしに聞いている。
そして、そのそばでは金角と銀角が床に転がって早くも寝息をたてていた。
さらに、三蔵と悟浄が将棋をさしていた。つむりのめぐりのいい二人は、すぐにこの国の遊戯をおぼえたのだ。
悟浄は日本語を話すことこそまだかなわないが、聞き取って理解することはできるようになっている。
――盤面の駒の配置は、ふたりの性格をかなり反映していた。
悟浄の側は穴熊と呼ばれる布陣で、王将を他の駒ががっちり囲んで守る形になっている。
一方、三蔵は風車(かざぐるま)――柔よく剛を制す戦法をとっていた。
前者が堅実に駒を運び、後者はほころびが出るのを待ってはすかさず攻撃に出て、悪手と悟れば即座に引く、なんとも対照的な戦いだ。
「明日(あす)の御前試合、俺たちにとってもいい試金石になる」
駒を運びながら悟浄が口を開く。視線は盤面にすえたままだ。
三蔵は眼で、どういうことだ? と先をうながす。
「確かに俺たちは蒲地の兵を圧倒した。だが、所詮は雑兵だ。兵法の上手を対手にして、明の武術が通じるかは未知数――」
「弱気なことをいうな。俺たちは勝つために海を渡ってきた。通じるかじゃない、通用させる」
三蔵は悟浄になかば噛みつく調子で告げた。
悟空も瓢(ふくべ)の酒でひとり酒宴を開きながら、その話を陽気な顔で聞くとはなしに聞いている。
そして、そのそばでは金角と銀角が床に転がって早くも寝息をたてていた。
さらに、三蔵と悟浄が将棋をさしていた。つむりのめぐりのいい二人は、すぐにこの国の遊戯をおぼえたのだ。
悟浄は日本語を話すことこそまだかなわないが、聞き取って理解することはできるようになっている。
――盤面の駒の配置は、ふたりの性格をかなり反映していた。
悟浄の側は穴熊と呼ばれる布陣で、王将を他の駒ががっちり囲んで守る形になっている。
一方、三蔵は風車(かざぐるま)――柔よく剛を制す戦法をとっていた。
前者が堅実に駒を運び、後者はほころびが出るのを待ってはすかさず攻撃に出て、悪手と悟れば即座に引く、なんとも対照的な戦いだ。
「明日(あす)の御前試合、俺たちにとってもいい試金石になる」
駒を運びながら悟浄が口を開く。視線は盤面にすえたままだ。
三蔵は眼で、どういうことだ? と先をうながす。
「確かに俺たちは蒲地の兵を圧倒した。だが、所詮は雑兵だ。兵法の上手を対手にして、明の武術が通じるかは未知数――」
「弱気なことをいうな。俺たちは勝つために海を渡ってきた。通じるかじゃない、通用させる」
三蔵は悟浄になかば噛みつく調子で告げた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
輪廻のモモ姫
園田健人(MIFUMI24)
歴史・時代
まだ日本が「大八洲」と呼ばれていた時代。
伊邪那美命(通称:ナミ)から生まれたモモは、伊邪那岐命(通称:ナギ)が殺害しようとしていたカグヅチを守るため、ある巨大な洞窟へ逃げ隠れる。
しかし、その洞窟には祟り神の力を得た巫女が住むと言われており、モモと従者は戦いを余儀なくされた。
その巫女に打ち勝つと、モモは「輪廻転生」の呪いを受け、生まれ変わりの後も前世の記憶を受け継ぐ能力を身に付けてしまう。
信濃の大空
ypaaaaaaa
歴史・時代
空母信濃、それは大和型3番艦として建造されたものの戦術の変化により空母に改装され、一度も戦わず沈んだ巨艦である。
そんな信濃がもし、マリアナ沖海戦に間に合っていたらその後はどうなっていただろう。
この小説はそんな妄想を書き綴ったものです!
前作同じく、こんなことがあったらいいなと思いながら読んでいただけると幸いです!
信忠 ~“奇妙”と呼ばれた男~
佐倉伸哉
歴史・時代
その男は、幼名を“奇妙丸”という。人の名前につけるような単語ではないが、名付けた父親が父親だけに仕方がないと思われた。
父親の名前は、織田信長。その男の名は――織田信忠。
稀代の英邁を父に持ち、その父から『天下の儀も御与奪なさるべき旨』と認められた。しかし、彼は父と同じ日に命を落としてしまう。
明智勢が本能寺に殺到し、信忠は京から脱出する事も可能だった。それなのに、どうして彼はそれを選ばなかったのか? その決断の裏には、彼の辿って来た道が関係していた――。
◇この作品は『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n9394ie/)』『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093085367901420)』でも同時掲載しています◇
和ませ屋仇討ち始末
志波 連
歴史・時代
山名藩家老家次男の三沢新之助が学問所から戻ると、屋敷が異様な雰囲気に包まれていた。
門の近くにいた新之助をいち早く見つけ出した安藤久秀に手を引かれ、納戸の裏を通り台所から屋内へ入っる。
久秀に手を引かれ庭の見える納戸に入った新之助の目に飛び込んだのは、今まさに切腹しようとしている父長政の姿だった。
父が正座している筵の横には変わり果てた長兄の姿がある。
「目に焼き付けてください」
久秀の声に頷いた新之助だったが、介錯の刀が振り下ろされると同時に気を失ってしまった。
新之助が意識を取り戻したのは、城下から二番目の宿場町にある旅籠だった。
「江戸に向かいます」
同行するのは三沢家剣術指南役だった安藤久秀と、新之助付き侍女咲良のみ。
父と兄の死の真相を探り、その無念を晴らす旅が始まった。
他サイトでも掲載しています
表紙は写真ACより引用しています
R15は保険です
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる