直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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「――我らは旅の兵法者にございます」
「なぜ、旅の兵法者が蒲地の兵に襲われていた?」
 三蔵の返答に、気短げな感覚で女武弁が質問を投げかける。
「『貴様らのような面妖な連中がただの兵法者であるはずがなかろう』と龍造寺の細作と疑われ、問答無用で襲われたゆえ、刀槍でもって応じたのでございます」
 先ほどの口調とは打って変わって、丁寧な態度で三蔵はこたえた。
「ほう、それは難儀だったな」
 女武弁はニヤリと笑う。と、ここで彼女は表情を変えた――
「しかし、見事なものだな」
 感心した様子で三蔵たちが手にかけた士卒たちの死体を眼であらためる。
「変わった得物を操るようだが、おぬしらはどこの出の者だ?」
「はっ、大明より参った兵法者でございます」
 何気なく放った問いに、予想だにしなかった三蔵の返答があり、女武弁は眼を丸くした。その顔つきは童女を思わせ、先ほどまでの雰囲気とはかけ離れたものだ。
「――ほう、明より参ったと申すか? いかさまな、面白き刀法を遣うとは思ったが」
 開けっ広げな態度で彼女は言葉を重ねる。
 それらのやり取りを、士卒たちやや不安げに見守っていた。
「して、何ゆえおぬしらは日の本へ参った? 回国修行のためか?」
「さにあらず。兵法の技を用立て、仕官するために日本に参りました」
 三蔵は特に後半に力を込めていった。
「ほう、仕官するために」
 女武弁は益々興味深げな顔をする。
「何故、仕官したいのだ?」
「我らが力を存分に振るえる戦場(いくさば)を求めるがゆえ――」
 それは三蔵たちの偽らざる心持ちだ。
「戦場を求め……」
 女武弁は笑みを深くしてつぶやく。
 その表情に、さらに周囲の士卒が憂わしさの色を濃くした
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