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「よし、ならばおぬしたちを召抱えよう!」
女武弁はいいことを思いついたという顔をする。
「お待ちくだされ、円久尼(えんきゅうに)様。このような胡乱な者をいきなり取り立てるなど――!」
「黙れ、保知(やすとも)。妾(わらわ)の決定に口をはさむのか?」
眼を剥いて抗議する士を、彼女は凄絶な眼でにらみつけた。
その視線を受けて保知と呼ばれた侍は、ぐっ、と以降の言葉を呑みこむ。
「――そういうわけだ。おぬしたちは、今日(こんにち)から我が夫百武賢兼(ひゃくたけともかね)の家来だ」
と、円久尼は満面の笑みで告げた。
「……は、ありあがたき仕合せ」
あまりにも期待通りにことが運び、ややあっけにとられていた三蔵はハッと我に返ってこたえる。
「なあ、なにがどうなってるんだ?」
「俺たち、あのきれいな女の人の家来になることになったみたいだよ」
そんな彼の背後では、そんな暢気なやり取りが悟空と紅孩児の間で交わされていた。仲間うちで三蔵以外に日本語を解する者が後者しかいないため、そういった事態が起きるのだ。
第二章
一
三蔵たちが九州の地を踏んだ年というのは、耳川の戦いにおいて島津が大友を破った天正六年(一五七八年)の翌年に当たる。
この頃、龍造寺隆信は大友氏の衰退に乗じて筑前(現在の福岡県西部)へ攻勢をかけ、十五群のうちの九群を領有し、『五州二島の太守』と豪語した彼の絶頂期と重なっていた。
ただし、地盤が確固たるものかと問われれば「否」と答えざるを得ない。
なぜなら、隆信の配下に入った領主はその威勢になびいただけの者が多く、また龍造寺家の側としても、彼らの強大な権力をふるえたわけではなかった。両者の関係は誓紙・起請文(きしょうもん)の交換といった従来の領主間の盟約の延長にあり、この隆信の絶頂期から早くも離反者が続出している。
女武弁はいいことを思いついたという顔をする。
「お待ちくだされ、円久尼(えんきゅうに)様。このような胡乱な者をいきなり取り立てるなど――!」
「黙れ、保知(やすとも)。妾(わらわ)の決定に口をはさむのか?」
眼を剥いて抗議する士を、彼女は凄絶な眼でにらみつけた。
その視線を受けて保知と呼ばれた侍は、ぐっ、と以降の言葉を呑みこむ。
「――そういうわけだ。おぬしたちは、今日(こんにち)から我が夫百武賢兼(ひゃくたけともかね)の家来だ」
と、円久尼は満面の笑みで告げた。
「……は、ありあがたき仕合せ」
あまりにも期待通りにことが運び、ややあっけにとられていた三蔵はハッと我に返ってこたえる。
「なあ、なにがどうなってるんだ?」
「俺たち、あのきれいな女の人の家来になることになったみたいだよ」
そんな彼の背後では、そんな暢気なやり取りが悟空と紅孩児の間で交わされていた。仲間うちで三蔵以外に日本語を解する者が後者しかいないため、そういった事態が起きるのだ。
第二章
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三蔵たちが九州の地を踏んだ年というのは、耳川の戦いにおいて島津が大友を破った天正六年(一五七八年)の翌年に当たる。
この頃、龍造寺隆信は大友氏の衰退に乗じて筑前(現在の福岡県西部)へ攻勢をかけ、十五群のうちの九群を領有し、『五州二島の太守』と豪語した彼の絶頂期と重なっていた。
ただし、地盤が確固たるものかと問われれば「否」と答えざるを得ない。
なぜなら、隆信の配下に入った領主はその威勢になびいただけの者が多く、また龍造寺家の側としても、彼らの強大な権力をふるえたわけではなかった。両者の関係は誓紙・起請文(きしょうもん)の交換といった従来の領主間の盟約の延長にあり、この隆信の絶頂期から早くも離反者が続出している。
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