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「大事はない、親分」
「それがしも」
 伊平治につづいて、小次郎も無事をつたえた。
「栄助の鉄砲に助けられたぜ」

「栄助の鉄砲に助けられたぜ」
 その言葉に栄助は深い安堵をおぼえた。
 最初、立ち位置などの関係で鉄砲を撃てなかったのだ。それで慌てて移動して鉄砲を構えたのだが間に合ってよかった。
 これが人の命を預かる感覚か――心の臓に悪い。
 そんな経験をあと三回、三人を相手にしなければならないと思うと気が重かった。
 が、予想に反して二人目、三人目は首尾よく始末がつけられる。
 公儀隠密の看板が大きくなり過ぎていたのだろう、思ったほどの相手ではなかったのだ。むろん、油断のできる相手ではなかったが。
 だが、最後と思われる引き回し合羽をつけた隠密らしき男を尾行していたとき、予想していなかった事態が起きた。
 森の一角のどこにでもありそうな樹の下で、煙の末が動かなくなったのだ。
 いぶかしく思いながら栄助たちが見守ること一刻、煙の末が動き出したかと思ったら振り分け荷物から鳩を取り出したのだ。何をしているのか、と怪訝に思いながら栄助は公儀隠密が鳩を宙に放つのを見守る。
 煙の末の意図が分からず、距離が隔たったところで伊平治たちと合流した。
「まずいことになった」
 伊平治の顔色は悪い。
「おそらく、無為に木の下にいたということはあるまい。仲間とのつなぎの目印があそこだったのだろう」
 となると、仲間に何かあったと煙の末に知られたことになる。
「鳩は飛脚の代わりに文を届けるものだ」
 伊平治の言葉に、栄助はハッとなった。確かに言われてみれば足首に文のようなものが結ばれていた。
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