陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「昔から、おまえは要領が悪かったからな」
「そうか?」
 助左衛門の言葉に栄助は首をかしげる。
 陣借り無宿になるまで“新しいこと”になど挑戦しなくなって久しかったから、要領が悪いなどという自覚がなかったのだ。
「釣り、石を投げての水切り、木登り、なんだっておれより随分と後に覚えてただろ?」
「そう言われてみれば、そうかもな」
 助左衛門の隣に座り猪口に酒を注いでもらいながら栄助はひとつうなずいた。
「ところが、猟の腕は天稟だった。あっという間に一人前以上の猟師になっちまったからな」
「いや、猟だって色々と工夫したし悩んだぞ」
「へえ、そうだったのか?」
 昔話に花が咲く。皮肉な話だ。相手の家族を自分の父が破滅させ、さらには己が無宿の道に引き込まれたというのに笑い合っているのだ。
 だが、栄助は陣借り無宿になって、当たり前というものが実は当たり前でないことを悟っている。
 せめて、その境遇のなかで生きたいように生きるさ――。

   二

 夕餉時の出来事だ、きっかけは猪助の何気ない一言だった。
「栄助みてえな鉄砲の上手が仲間にいると便利なのかもしれねえな」
「それなら、おれたちだって鉄砲を使えるじゃねえか」
 猪助の言葉に助左衛門が反論する。
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