陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「ここは高瀬市左衛門さんの住処でしょうや」
「さようだ、うぬのような者が何用だ?」
 浪人は男を睨んだ。凄みが利いていようが関係ない、彼の腕は床の鞘に収まった刀を拾い上げていた。狭い長屋の一室でも関係ない、彼の腕前があれば刀をふるうことができる。
「怖い怖い、あっしを斬るつもりでござんすか」
 男はこちらの意図を察してなお笑った。
「しかし、もったいない。腕利きでございましょう、その腕を安売りするのはもったいのうございやしょう」
 男の言葉に浪人は眉をひそめた。
 もしや、と思った。ここら一体で腕利きの者ばかりを集めるやくざ者がいる、と噂に聞いていた。
 試してみるか――浪人は抜刀一閃、刀を下から上へ走らせる。
 が、男の表情から笑みは消えない。自分の帯の下側が斬られたのを目の当たりにしても動じなかったのだ。
「やはり、いい腕だ」
 うなずく男に、
「先ほども聞いた、何用で参った?」
 男はしかめっ面になってたずねる。
「先生に仲間に入ってもらうために参りやした」
「ふん、先生か」
 その言葉の皮肉な響きに浪人は唇を歪めた。
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