陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 気配を感じ取ることについては絶大な自信があったのだ。
 武芸で鍛えた者の気配の消し方はまた違うものがあるのだろうか――。
 そんな思いを栄助は抱く。
「見事な手並みであった」
「それはどうも」
 武士の賞賛に猪助が小さくうなずいた。
「特にそこな鉄砲遣いの腕がいい」
 武士に目を向けられ栄助は当惑する。
 助左衛門にも言ったが人殺しの腕を褒められてもうれしくないのだ。だが、とりあえず、
「そいつはどうも」
 形だけ賞賛を受け取っておいた。
「してな、仕事というのは」
 そこで武士が声を低くした。
「大名家当主を仕物にかけてほしい」
 その言葉に栄助は頭蓋を砕かれたような衝撃をおぼえた。
 殿さまを弑殺する――その事実に言葉にできない感情をおぼえた。
 栄助にとっては殿さまとは徳川様の次に偉い、そんなふうに感じられる存在だ。徳川家よりは身近な存在ということもあってこの世の支配者は殿さまのように感じていた。
 それを手にかける――栄助の鼓動が速まる。
「それまた随分と無茶な話だ」
 猪助が口角をあげて武士に告げた。
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