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 栄助は畑をのぼった林の中におり、鉄砲を構えている。
 半町ほどの距離、半助は林の樹に同化して銃口を委託する形で構えた。
 畑で村人たちに遠巻きに囲まれる猪は動きを頻りに変えた。
 発砲、猪の頭蓋が砕ける。
 これで、妹の食は心配しなくていいし毛皮を売ればそれなりの鳥目(あし)になる。
 村人たちが興奮して取り囲むなか栄助は獲物を捌いた。
 肉も皮も狩りに挑んだ者だからの褒美だ――物欲しそうになっておこぼれを期待する人間にはなりたくなかった。
 だから、一直線の自分の住処まで帰りを急いだ。
 家の戸を開けると、既に炊事の匂いがしていた。米が炊ける匂いと、鍋の香りが鼻孔をくすぐる。
「およね、ご苦労様」
 土間で調理とする妹を労う。
「お帰り、兄さん」
 妹がこちらに顔を向けた。小柄な体に純朴な顔立ちで見ていて癒しを覚える風貌をしている。
「まあ、今日も猪を獲ってきたの」
「田畑を耕すのが向かない性分だから、その分の得物を獲ってこないとな」
 目を見張る妹を前に、体の向きを変えて肩に担いだ猪を見せた。
「そのうち、村の周りから獣がいなくなるわねえ」
「それが心配だ」
 しみじみと告げる妹に、栄助も同調する。獲物不足は現実問題だ。
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