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「将門、そなたも国に帰れば兵の家の主なんだよな」
「さようだ」
あまり兵の家の話をしたがらないのに、と不思議に思いながら将門はうなずく。
「坂東の地は難儀だろうな」
「さよう、だろうな」
在信の言葉に将門は頬を歪めた。
当世の坂東とは不安定な土地だ。言い換えると争いの絶えない土地ともいえる。
「なれど、将門ならいずこでもやっていけるだろうな」
「人を持ち上げるな」
在信のせりふが気持ち悪く将門は首をすくめた。
「持ち上げてなんかいないさ。先の、里の者たちとの戦いぶりを見て改めて小次郎は兵らしいと存念したまでのこと」
兵らしいか――その言葉に鎮守府将軍平良持、父の姿が将門の脳裏に浮かんだ。彼にとって兵といえば父のことだった。だが、必ずしも崇敬の念を寄せている相手ではない。だから、兵らしいと言われるとどうにも複雑な思いがした。
「そもじとて、立派な兵だろう。弓の腕は俺より優れておる」
「弓は、な」
「贅沢をもうすな。そもじ並の弓の達者などそうそう見つかるものではないぞ」
力無く言う在信を将門は思わず叱責する。
理不尽な出来事を力ずくで解決することができる、そんな兵のひとりだというのにいじけたような物言いをするのが気に入らなかった。
福丸のごとくただ蹂躙されるような者もおるのだぞ――万が一にも起きてこないとは限らないから口には出さずにつぶやく。
「さようだ」
あまり兵の家の話をしたがらないのに、と不思議に思いながら将門はうなずく。
「坂東の地は難儀だろうな」
「さよう、だろうな」
在信の言葉に将門は頬を歪めた。
当世の坂東とは不安定な土地だ。言い換えると争いの絶えない土地ともいえる。
「なれど、将門ならいずこでもやっていけるだろうな」
「人を持ち上げるな」
在信のせりふが気持ち悪く将門は首をすくめた。
「持ち上げてなんかいないさ。先の、里の者たちとの戦いぶりを見て改めて小次郎は兵らしいと存念したまでのこと」
兵らしいか――その言葉に鎮守府将軍平良持、父の姿が将門の脳裏に浮かんだ。彼にとって兵といえば父のことだった。だが、必ずしも崇敬の念を寄せている相手ではない。だから、兵らしいと言われるとどうにも複雑な思いがした。
「そもじとて、立派な兵だろう。弓の腕は俺より優れておる」
「弓は、な」
「贅沢をもうすな。そもじ並の弓の達者などそうそう見つかるものではないぞ」
力無く言う在信を将門は思わず叱責する。
理不尽な出来事を力ずくで解決することができる、そんな兵のひとりだというのにいじけたような物言いをするのが気に入らなかった。
福丸のごとくただ蹂躙されるような者もおるのだぞ――万が一にも起きてこないとは限らないから口には出さずにつぶやく。
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