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「この邸の御所さんに召し出された者だ」
あらかじめ決められていたせりふを口にした。すると、すぐに門扉が開いて下男がこちらを母屋のほうへと案内する。
蔀戸をあげて中に入ると、邸の主がしとね(座布団)の上で手酌で酒を飲んでいた。
かような刻限からか――そういえば目の前の人物、右大臣藤原定方は寸刻たりとも酒を手放せないと風聞として耳にしたことがある。
「邦平(くにひら)、そもじもやれ」
告げて、定方はあらかじめ用意していた傍らの盃に酒を注いだ。
「右大臣にお注ぎいただくとは恐縮にございます」
平邦平は検非違使に過ぎない。それが上達部に酒をふるまわれる光栄さよりも、相手の腹のうちが気になって背筋が寒くなった。
それでも差し出された盃を突き返すわけにもいかず押しいただく。それを、
「それでは馳走になりまする」
邦平は盃に口をつけた。緊張が喉を乾かしたせいか一息に半分ほど飲み干した。
「うむ、良き飲みぶりでおじゃる」
定方は満足げにこれにうなずく。
相手から用件を切り出しそうな雰囲気がない。そこで、嫌々ながら邦平は口を開く。
「右大臣、今日は何用でございましょうや」
ああ、それか、定方は微笑を浮かべてひとつうなずいた。
あらかじめ決められていたせりふを口にした。すると、すぐに門扉が開いて下男がこちらを母屋のほうへと案内する。
蔀戸をあげて中に入ると、邸の主がしとね(座布団)の上で手酌で酒を飲んでいた。
かような刻限からか――そういえば目の前の人物、右大臣藤原定方は寸刻たりとも酒を手放せないと風聞として耳にしたことがある。
「邦平(くにひら)、そもじもやれ」
告げて、定方はあらかじめ用意していた傍らの盃に酒を注いだ。
「右大臣にお注ぎいただくとは恐縮にございます」
平邦平は検非違使に過ぎない。それが上達部に酒をふるまわれる光栄さよりも、相手の腹のうちが気になって背筋が寒くなった。
それでも差し出された盃を突き返すわけにもいかず押しいただく。それを、
「それでは馳走になりまする」
邦平は盃に口をつけた。緊張が喉を乾かしたせいか一息に半分ほど飲み干した。
「うむ、良き飲みぶりでおじゃる」
定方は満足げにこれにうなずく。
相手から用件を切り出しそうな雰囲気がない。そこで、嫌々ながら邦平は口を開く。
「右大臣、今日は何用でございましょうや」
ああ、それか、定方は微笑を浮かべてひとつうなずいた。
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