平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「大食よ、また思い出しておるのか」
 相手の言葉で大食は我に返る。
「忘れたことなどないわ」
 それに彼は声を低くした。

 巳の刻、藤原忠平の屋敷では正式の朝食が用意されていた。
 普段は妻とふたりで食事を取る忠平だったが、こたびは客がおとずれているために彼女には遠慮させた。
 強飯(こわいい)、乾物、膾(なます)といった物が食膳に並ぶ。それを忠平は相手に進めることはせず、箸で淡々と口に運ぶ。
 それを見つめる客は、貴族ではあるが着古した衣装をまとっていた。
「それで、申し上げたき儀とはなんでおじゃる」
「は、菅家廊下(かんけろうか)に通っていた者に不審の動きがありまする」
 忠平の問いかけに貴族は慎重な口ぶりで応じる。菅家廊下は菅原道真の開いていた塾の名だ。
「さようにもうすそもじも、菅家廊下の門戸を叩いた者でおじゃろう」
 相手の言葉に忠平が皮肉な表情を浮かべる。
 菅家廊下は学習塾だったが、菅公が権力の座にあったときはこの塾の者を後押しして内裏に送り込むということにしていた。血筋からして成り上がることにむずかしい者にとっては学問によって出世の道を開くことができるという希望を血縁に恵まれない貴族に与えていた。
「そ、そうもうされますな。かように一の上のもとに中心に参っておじゃります」
「そうだの、そう受け取っておこうか」
 相手の言葉に忠平はあくまで意味ありげな笑みで応じる。
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