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第一章

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佐藤から連絡があった。

『明後日からヒートなので、いつでも、唐澤君の都合がいい時に来て下さい』

鍵も渡されている。

…………
明後日からか。ヒートは初日が特に辛いと言われている。
大丈夫だろうか。食べ物はあるのだろうか。
智則に似たあの瞳が……


ゼリー飲料と、レトルト食品を大量に買った。
そのまま、佐藤の家に行った。連絡はしたが返信は無かった。食料品をまた持ち帰るのも面倒なので、土間に置いて出て行こうと、渡された合鍵を使った。

途端にふわりと甘い香りがした。
既にヒートになっていたのだ。何故一日ごまかしたのか。
ラット抑制剤も持ってはいるが、まぁ、使用しなくても大丈夫だろう。
俺は番持ちでもないのに、それと同じ反応になる。Ωのフェロモンが効かないのだ。匂いもわかるしそれなりに反応もするが、散らそう意識すれば散る、気が向けばやる、その程度の発情で、ラットになったりすることはない。

「佐藤、開けるぞ」
寝室と思しきドアを開けると、トロンとした顔の佐藤がいた。
随分前に無くした俺のハンカチを握りしめている。
…………せフレにはあと腐れ無さそうなヤツを選んでいたつもりだったが、違ったようだ。
俺が前に貸したパーカーもベッドの上に待機していた。
『え?お前がせフレに服をやるって……よっぽど気に入ってるんだな。』
『いや、傘が無くて髪の毛が雨で濡れて気の毒だったから…』
『下手に執着されても困るからってせフレに何もやらなかった男なのに……』
岡田とのやり取りを思い出した。
そう、あの時の自分は、佐藤の黒い黒いけれど柔らかい髪を保護したかったのだ。
パーカーは暫くして返してくれたけれど、何か違和感があった。今なら分かる。佐藤は同じパーカーを購入してそれを俺に渡したのだ。
…………

「唐澤くん……」
黒い黒い瞳が、欲に濡れた瞳が俺を見上げてきた。
俺に手を伸ばしてくる。
とものり…………
汗で湿った髪の毛。上気した頬。辛そうで思わず抱きしめた。
「由希っていって」
「ゆき」
もう理性が無いのだろう、舌っ足らずの名前呼びは幼き頃の智則を思い出せる。
「ゆきゆきゆきぃ~」
智則が俺をせがんでくる。ああ、智則がΩだったのならと何度も思い、それを何度もネタにした。
智則、音には出さずに口だけで呼びながら、佐藤のヒートに付き合った。

ヒート中、特に初日、佐藤はネックガードを何度も外して、噛んでと狂ったようにせがんできた。佐藤はこれを警戒してヒートの日程を誤魔化して俺に連絡をしてきたのだ。俺は、あと腐れのないセフレを求めているだけだから番契約を持ち掛けてきたヤツは早々に切っている。周知の事実だ。
佐藤がネックガードを外す度に俺が着ける。着けられるのを泣きながら嫌がる。
噛んで噛んでと叫ぶ。
面倒になって放置した。
どちらにしろ、俺が佐藤を噛む事はない。

3日経ち、正気に返った佐藤は首触って青ざめた。
ネックガードを自ら外したことにショックをうけている。自分が契約を迫ってしまったのではないかと。
そして、悲しそうな顔になった。おそらく、俺に噛まれていない事に傷ついたのだ。

「あ、あの。唐澤君、僕何か言った?」
「……………いや。何も。ただ、そのネックガードは暗証番号のみだろ。もう少し、セキュリティの高いのにしろ」
正気を失っていても、手に癖がついていて外してしまう

「………………うん」

佐藤は俺の嘘に気がついている。けれど、俺も佐藤のあれは無かったことにしたいのだ。

「ご飯、買ってきてある。食べれるうちに食べておこう」

「うん!ありがとう!」

俺が準備してきてるとは思ってもなかったのだろう。えらく喜んでいた。

そのまま、佐藤のヒートがあけるまで付き合った。










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