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中納言の掌中の珠

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中納言のくだけた物言いは少しづつ低く小さくなり凄味のある声となる。

東宮は中納言の声色と目の冷たさに気圧されたように言う

「今後、しばらくは忠宗と二人ではあわない…。」 

中納言はうなずきほほえんだ。

こっそりと中納言の反応をみる、

中納言はめったなことでは激せずおっとりとしていて、もめごとを何よりも嫌い、意見の対立があるときは常に双方をたて、皆を納得させる折衷案を出す。調整者として帝の信頼もあつい。

また政争を嫌うため中納言自身にも出世欲 はなく、万事において控えめであり政敵に攻撃されても周囲に被害がおよばないと推測されるときなどは受け身をとるだけだ。
嫌味などの実害がないケースではニコニコ微笑んで受け流すため、そのうちに相手がばからしくなって攻撃を止めるのが常である。 公けの場で侮辱れてもおっとりとしている中納言を頭に花がさいている という者も少なくない。

しかし、普段怒らない者が一度おこるとすさまじいものがある。そらにその者が出世欲にかけていると思う存分怒りつくせるのだ。人に何を言われようとも気にせず、己より身分の高い人に対しても、である。

目の前で何を言われても笑ってい る人の怒る姿など想像できる者などいない。 結果、忠宗の前で彼の姉君と東宮について話してはならない、という標語を 無視し海よりも深く反省する程度ではすま ないなかった公達が続出したが、現在もあとをたたない。

地位や富を守らんとする貴族同様に忠宗は二人を守るためには冷酷なまでに計算高くなり、手段も選ばない

貴族は忠宗の手段も恐れるが、何よりも恐怖を感じさせるのは鬼神も核やといった忠宗の表情である。

若い(幼い?)公達などは少々無鉄砲で名門ともなると甘く育てられる者もおり、忠宗の表情におびえ 山ごもりをしたり、家に籠って外に出れなくなったりする。

自分が今、恐慌状態にならずにすんでいるのは、忠宗の怒りが東宮たちを守 ろうとして他者に向かっているのを自覚しているから。

そうでなければ、この冷酷な瞳にたえられない。

 「そう、そうですね。……そのほうがよろし いのでしょう。」 

東宮の言葉にそう答えながら目をふせた。東宮の目を見れないのは後ろめたさからだろうかと中納言は思った。

先程言った言葉はいてわりではなく真実、自分は東宮のことを心配している。それは真 実である。けれど、そう、自分は、そ のために言ったのではない。

沙野を守りたい。そのために東宮の気をそらすために言ったのだ。沙野は美しく教養があり知識は、そう、まさに神だ。東宮が会って言葉を交わせばどうなるか…結果など目に見えている。

中納言は、つきそうになった留息をあわて飲み込む

東宮に自分の考えは理解できないであろう。とりあえず沙野の存在が知れてしまったが、忠宗が姫を隠したがっていることはわかったはずで公の場で姫のことを問うたりはしないだろう。

「しかし奇しの恋とは……だいたいなぜ女房までが信じるのだ?まったく。」

東宮がぶつぶつと文句をいう

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