天ノ恋慕(改稿版)

ねこかもめ

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第1章:決意

決意の御来光

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「リオ……僕は、やるよ!」

 そう、決意の言葉を口にした少年。そんな彼を、炎のようなオーラが包み込んだ。

「ユウキくん……」

「この……温かさは……?」

「かかってこい、バケモノ!」

 語気を強めて叫ぶと、そのオーラはさらに爆発的に広がった。

「この力、もしかして、これが——」

「この強く優しい温かさが、日の巫女だとでも言うのか……?」

 呆気にとられる二人の騎士をよそに、ユウキはバケモノに向かっていく。

「くらえ、サン・フラメン!!」

 剣が眩い輝きを帯びた。炎をまとった剣撃が、氷纏いに叩き込まれる。

「うおおおおおお!」

《グググギガ!?》

 アインズとツヴァイの攻撃をモノともしなかった鎧は、いとも簡単に剥がれていく。

 中からは華奢な骨格が現れた。それも、炎の剣によっておおよそ四等分に切り裂かれた。

 化け物は地面に散らばり、二度と立ち上がることは無くなった。

「うっ!」

 始めて力を覚醒させた少年は、そのまま膝から崩れ落ちた。

「ユウキくん!」

 氷が融け、拘束より解放されたアインズが駆け寄る。

「立てる?」

彼女はユウキに手を差し出した。

「……はい」

少年はその力を借り、立ち上がる。そこへ、ダメージを負ったツヴァイが、よろよろと歩み寄る。

「あっ……!」

 それに気付いたユウキは、咄嗟に日長石を手で隠そうとした。無論、バレバレな行動であったが。

「ふん、安心しろ。もう、君からそれを奪おうとは言えまい」

 ツヴァイにとってユウキは、奇しくも命の恩人となった。

 そのきっかけとなった日長石を再び奪うなどという事は、彼の心が許さなかったようである。

「信じてくれたんですか?」

「……さあ、な。ただ、結論を出すには早計だった。君には、申し訳ないことを言ったな。あれらの言葉は、撤回させてほしい」

 彼の言葉を聞いたユウキは、目頭が熱くなるのを感じた。

「もう、最初から素直にそう言えばいいじゃない」

「お前は簡単に他人を信じすぎだ。いつか足元をすくわれるぞ」

——やったよ、リオ

「ツヴァイさんが、第一号ですね」

「……第一号?」

「あ、いえ。こっちの話です」

と、そこへ。

「無事か、少年?」

「貴方は、さっきの……」

 あの豪華な鎧の騎士であった。どうやら群れを突破し、ここまで追い付いたようである。

「メ、メーデン様……?!」

「どうして、このような場所へ?」

「どうしてもこうしても、王国の危機を見過ごすわけにはいくまい」

 そう言いながら周辺を観察したメーデンは続けた。

「……何かあったのか?」

 やけに大きなバケモノの死骸と濡れた地面、そして何より、ボロボロになった二人を見て察したのであろう。

「はい。私から説明させていただきます——」

◇◇◇

 ——ブライトヒル王国城、王の間

 アインズからメーデンへ、一連の出来事が口頭報告された。その内容に興味を抱いたメーデンは、王にも話そうと提案。

 メーデンは、王の側近騎士である。

 そして今、ユウキ、アインズ、ツヴァイ、メーデンの四人が王の間へ来ている。

 三人が恰幅のいい男性に向かって跪いた。ユウキも遅れて倣う。

 クライヤマとはまるで異なる、見た事もない統治体制にユウキは驚くばかりであった。

「貴君らの活躍により、我がブライトヒルは、何とか難を逃れることに成功した」

 氷纏いのバケモノが死んで以降、バケモノは急速に散っていったらしい。つまり、あのバケモノが群れの中心であったことは間違いない。

「礼を言う」

形式ばった言葉をつらつらと並べる王。

「ああ、すまない。良いぞ、姿勢を直したまえ」

 その言葉を合図に、三人は立ち上がった。また一瞬遅れて、ユウキも立ち上がる。

「ところで、君。ユウキと言ったな」

「はい」

「バケモノの撃退には、君の活躍が大きく影響したと聞いている」

「いえ、そ、そんなことは……」

 何人もの騎士の死体を見たユウキは、彼らこそ感謝されるべきだと考えていた。

 それに比べれば、自分のやったことなど……と。

「はっはっは、そう謙遜するな」

「……」

「そこで、君のこれからについてだが、是非、君に騎士団の一員になってもらいたいと考えている」

「僕が、騎士団に……?」

「そうだ。クライヤマから降りて来たばかりで不安は多いと思うが、決して悪い話ではなかろう?」

——僕がここで騎士団の一員に?

——生活には困らないだろうな

——王の言う通り、悪くない話ではある

……いや、それでもダメだ

「せっかくですが、お断りさせてもらいます」

「……そうか。残念だが、君がそう言うのなら尊重しよう」

 まさか断るとは。そんな気持ちを抱きながら、彼はユウキに問うた。

「では君はこれから、どうするのだ?」

——僕のやることは、使命は、既に決まっている

「旅に出ます」

「旅?」

「はい。旅に出て鎖を破壊して、月を解放します。そしてクライヤマの……日の巫女の無実を世界に証明したい——いや、します」

 少年の言葉を聞いた王は、まっすぐに彼の目を数秒間見つめた。

「……その意思、揺るぎは無いな?」

「はい」

「うむ、承知した」

右手で顎髭をいじり、王は続けた。

「アインズ」

「はっ」

「クライヤマで彼を救助したのは、君だったな?」

「はい」

「ならば彼の旅、君が同行してサポートしてやれ」

「私がですか? しかし、第一部隊は——」

「心配には及ばぬ。メーデン、しばらく代理隊長を務めよ」

「はっ、かしこまりました」

 側近騎士である彼は、王の命令に対して何の迷いも無く返事をした。

「そう言う訳だ。よろしく頼んだぞ、アインズ」

「しょ、承知いたしました」
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