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第1章:決意
精神の薄明
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◇◇◇
——ブライトヒル王国城門近辺
走り出したユウキは、大急ぎで市街地へと向かう。
自身が、クライヤマが、そして何よりリオが。この地獄のような出来事の黒幕ではない事を証明する唯一の方法。
それは、リオから日長石を託されたユウキ自身が戦いに身を投じ、事態の収束に臨むことであった。
「あっちから騒音が聞こえる……」
生まれて初めて見るブライトヒル王国の街並みだが、喧騒は土地勘のない彼をも容易に導く。さらに走り、城下街へと出た。
ここまで来ると、既に戦いの痕跡が見られた。
「うう……ひ、人の死体……!」
無惨にも切り裂かれた、もう動くことのない人間だったモノ。
「怖いけど、これくらいで諦めるわけには……」
気を強く保ち、騎士の死体へ近寄る。
「ついてる……のかな? まだ、きれいだ」
その手元には、剣が転がっていた。比較的、美品である。
「くそっ、い、意外と重いな」
初めて手に取った武器。アインズを始めとする騎士たちが軽々と振るっているそれは、全くの素人でしかないユウキにとっては、持ち上げるだけで一苦労の代物であった。
「よ、よし。なんとか」
よろけながらも、武器を手にした。と、そこへ。
《グギギィ……!》
「……っ! バ、バケモノ⁈」
人間の子供ほどの大きさをした小型が、少年を見て呻いた。
彼とて覚悟は決めていた。だがしかし、騎士でも何でもないユウキはバケモノを恐れた。
あの時とは違い、死にたいという感情に支配されていない。むしろ、やるべきことを見つけて、真逆の感情を抱いていた。
そんな中、一人で遭遇してしまったバケモノは、天使などではなく、やはり恐るべきバケモノに見えた。
《ウギャギャ!》
「う、うわ!」
目を瞑ってしまった。ろくに相手の動きを観察せず、ガムシャラに剣を振る。
《ウギャア?!》
「あ……た、倒した……?」
重さに引っ張られ、尻もちをつきながら当てずっぽうに振り回された剣は、奇跡的にバケモノを捉えた。
目を開けた彼の視界に、小型バケモノの死骸が映る。
「勝てたけど、こんなんじゃダメだ。こんな、偶然の勝ちじゃ」
再び重い剣を持ち上げ、喧騒が最も大きそうな方向へと進む。
◇◇◇
——ブライトヒル王国市街地中央
「う……で、でかいな……」
更に戦場を駆けたユウキは、今度は大型のバケモノと遭遇してしまった。
自身の倍とまではいかないものの、対格差が有りすぎる存在に数歩、後退りした。
《グギャァァァ!》
「き、来た!」
バケモノが長い爪を振り上げ——
「うわぁ!」
——勢いよく振り下ろした。数刹那前までユウキが立っていた場所に爪があった。
「あ……危なかっ——」
安堵しようとしたユウキ。だがバケモノはそれほど優しい存在ではなかった。振り下ろした爪を、そのまま地面に擦りながら彼の方へ。
「や、やめ——」
また、目を瞑ってしまった。
——ああ、僕の使命は。
——こんなところで幕を閉じるのか
諦めてしまったわけではない。かといって、諦めなければなんとかなる、などという根性論でどうにかなるような状態でもない。
彼の心理状態にかかわらず、終焉はまっすぐとユウキに迫る——が。
「君、目を開けて! 立ち上がるんだ!」
「——え?」
死を間近に控えた彼を救ったのは、またしても騎士であった。
「くらえ、バケモノ!」
《ウグギャァア?!》
首元からヘソまでを裂かれた大型のバケモノは、断末魔と共に地面に倒れた。
「あ……ありがとう、ございます」
見ると、その人物は、やけに豪華な装飾の鎧を身に着けていた。
第一部隊長を務めるアインズの鎧姿と比較しても、豪華さに大きな差を感じる程であった。
すなわち、彼女よりも地位が上の人物であると想像できる。
「君は……どうしてこんな所へ出てきた?」
顔を見て、相手がクライヤマから救助された少年であることに気が付いた様子。
「やらなきゃ、ダメなんです。僕が、やらなくちゃ!」
「……? とにかく、ここは危険だ。事態が終息するま——待つんだ!」
話も聞かずに走り出したユウキ。騎士が静止を促すも、止まらない。
「君、そっちは——くそ、邪魔をするな!」
いつの間にか周辺に集まってきた、小型と中型の群れ。ユウキを追う事はかなわず、彼は仕方なく対処にあたった。
◇◇◇
走った先で、ユウキはこれまでとは異なるものを目にした。
「これ、凍ってる?」
土に付いた足跡を見て違和感を覚えた彼は、しゃがんで触れてみた。辺りを見ると、何処からか続いている足跡の一部だと分かった。
「向こうまで続いてる……」
少し迷ったが、覚悟を決めた様子で——
「よし、追いかけよう」
無謀だと分かっていても、彼は進んだ。とても冷静とは言えない、目的に支配された狂気的な挑戦である。
「さ、寒い……えっと、左に続いてるな」
不自然な気温変化に気付きながらも、やはり止まることなく進んでいく。まるで何かに導かれるかのように、盲目的に駆ける。
角を曲がると、見知った騎士二人と、氷のバケモノを見つけた。
「あっ——!」
一歩近づいたその時、ツヴァイがバケモノによって飛ばされた。だが、彼が驚いたのは、ツヴァイの事ではない。
探し求めた首飾りが、すぐ目の前に落ちてくるという、運命的な出来事の為である。
「ユ、ユウキくん?!」
「ぐ……な、なぜ出て来た!」
日長石の首飾りを拾い上げる少年。その姿を見たアインズとツヴァイが言った。
その問いに、うってかわって妙に落ち着いた彼が答える。
「もう、嫌なんだ。何もできないのは。何もしないのは」
「だからって! ここは危険よ、城に戻りなさい!」
「決めたんだ! 僕は戦う、戦うんだよ!」
「な、何をバカなことを! 君は民間人なのだぞ?!」
二人の警告には耳を貸さず、拾った首飾りを自分にかけた。ゆっくりと目を閉じ、日長石を握りしめた。
——っ!
特別激しい拍動が一回。その一瞬、景色が全て消えた。
……?
真っ暗闇の空間。
何かに群がる大人たち。
それを背後から眺める少年。
記憶に新しい悪夢であった。
罵詈雑言を飛ばす彼らに少年は——
「夢……? いや、違うか」
それは、記憶。
それは、トラウマ。
「邪魔だ、どけ!」
右手を左から右へ払う。すると、前を塞いでいた大人たちの幻影が晴れた。
「——リオ」
幻影の向こう側に立っていた、綺麗な巫女衣装に身を包んだ少女が振り返る。
彼女の背には、まばゆい太陽がある。ユウキは、彼女に向かって右手を伸ばした。
少女は、それに呼応するように、少年に向かって笑顔で手を伸ばした。
「……あっ」
だが、二人の手が接触することは無かった。代わりに、日長石が激しく輝く。
その光はやがて闇を照らし、景色はブライトヒル王国の街に戻った。
——ブライトヒル王国城門近辺
走り出したユウキは、大急ぎで市街地へと向かう。
自身が、クライヤマが、そして何よりリオが。この地獄のような出来事の黒幕ではない事を証明する唯一の方法。
それは、リオから日長石を託されたユウキ自身が戦いに身を投じ、事態の収束に臨むことであった。
「あっちから騒音が聞こえる……」
生まれて初めて見るブライトヒル王国の街並みだが、喧騒は土地勘のない彼をも容易に導く。さらに走り、城下街へと出た。
ここまで来ると、既に戦いの痕跡が見られた。
「うう……ひ、人の死体……!」
無惨にも切り裂かれた、もう動くことのない人間だったモノ。
「怖いけど、これくらいで諦めるわけには……」
気を強く保ち、騎士の死体へ近寄る。
「ついてる……のかな? まだ、きれいだ」
その手元には、剣が転がっていた。比較的、美品である。
「くそっ、い、意外と重いな」
初めて手に取った武器。アインズを始めとする騎士たちが軽々と振るっているそれは、全くの素人でしかないユウキにとっては、持ち上げるだけで一苦労の代物であった。
「よ、よし。なんとか」
よろけながらも、武器を手にした。と、そこへ。
《グギギィ……!》
「……っ! バ、バケモノ⁈」
人間の子供ほどの大きさをした小型が、少年を見て呻いた。
彼とて覚悟は決めていた。だがしかし、騎士でも何でもないユウキはバケモノを恐れた。
あの時とは違い、死にたいという感情に支配されていない。むしろ、やるべきことを見つけて、真逆の感情を抱いていた。
そんな中、一人で遭遇してしまったバケモノは、天使などではなく、やはり恐るべきバケモノに見えた。
《ウギャギャ!》
「う、うわ!」
目を瞑ってしまった。ろくに相手の動きを観察せず、ガムシャラに剣を振る。
《ウギャア?!》
「あ……た、倒した……?」
重さに引っ張られ、尻もちをつきながら当てずっぽうに振り回された剣は、奇跡的にバケモノを捉えた。
目を開けた彼の視界に、小型バケモノの死骸が映る。
「勝てたけど、こんなんじゃダメだ。こんな、偶然の勝ちじゃ」
再び重い剣を持ち上げ、喧騒が最も大きそうな方向へと進む。
◇◇◇
——ブライトヒル王国市街地中央
「う……で、でかいな……」
更に戦場を駆けたユウキは、今度は大型のバケモノと遭遇してしまった。
自身の倍とまではいかないものの、対格差が有りすぎる存在に数歩、後退りした。
《グギャァァァ!》
「き、来た!」
バケモノが長い爪を振り上げ——
「うわぁ!」
——勢いよく振り下ろした。数刹那前までユウキが立っていた場所に爪があった。
「あ……危なかっ——」
安堵しようとしたユウキ。だがバケモノはそれほど優しい存在ではなかった。振り下ろした爪を、そのまま地面に擦りながら彼の方へ。
「や、やめ——」
また、目を瞑ってしまった。
——ああ、僕の使命は。
——こんなところで幕を閉じるのか
諦めてしまったわけではない。かといって、諦めなければなんとかなる、などという根性論でどうにかなるような状態でもない。
彼の心理状態にかかわらず、終焉はまっすぐとユウキに迫る——が。
「君、目を開けて! 立ち上がるんだ!」
「——え?」
死を間近に控えた彼を救ったのは、またしても騎士であった。
「くらえ、バケモノ!」
《ウグギャァア?!》
首元からヘソまでを裂かれた大型のバケモノは、断末魔と共に地面に倒れた。
「あ……ありがとう、ございます」
見ると、その人物は、やけに豪華な装飾の鎧を身に着けていた。
第一部隊長を務めるアインズの鎧姿と比較しても、豪華さに大きな差を感じる程であった。
すなわち、彼女よりも地位が上の人物であると想像できる。
「君は……どうしてこんな所へ出てきた?」
顔を見て、相手がクライヤマから救助された少年であることに気が付いた様子。
「やらなきゃ、ダメなんです。僕が、やらなくちゃ!」
「……? とにかく、ここは危険だ。事態が終息するま——待つんだ!」
話も聞かずに走り出したユウキ。騎士が静止を促すも、止まらない。
「君、そっちは——くそ、邪魔をするな!」
いつの間にか周辺に集まってきた、小型と中型の群れ。ユウキを追う事はかなわず、彼は仕方なく対処にあたった。
◇◇◇
走った先で、ユウキはこれまでとは異なるものを目にした。
「これ、凍ってる?」
土に付いた足跡を見て違和感を覚えた彼は、しゃがんで触れてみた。辺りを見ると、何処からか続いている足跡の一部だと分かった。
「向こうまで続いてる……」
少し迷ったが、覚悟を決めた様子で——
「よし、追いかけよう」
無謀だと分かっていても、彼は進んだ。とても冷静とは言えない、目的に支配された狂気的な挑戦である。
「さ、寒い……えっと、左に続いてるな」
不自然な気温変化に気付きながらも、やはり止まることなく進んでいく。まるで何かに導かれるかのように、盲目的に駆ける。
角を曲がると、見知った騎士二人と、氷のバケモノを見つけた。
「あっ——!」
一歩近づいたその時、ツヴァイがバケモノによって飛ばされた。だが、彼が驚いたのは、ツヴァイの事ではない。
探し求めた首飾りが、すぐ目の前に落ちてくるという、運命的な出来事の為である。
「ユ、ユウキくん?!」
「ぐ……な、なぜ出て来た!」
日長石の首飾りを拾い上げる少年。その姿を見たアインズとツヴァイが言った。
その問いに、うってかわって妙に落ち着いた彼が答える。
「もう、嫌なんだ。何もできないのは。何もしないのは」
「だからって! ここは危険よ、城に戻りなさい!」
「決めたんだ! 僕は戦う、戦うんだよ!」
「な、何をバカなことを! 君は民間人なのだぞ?!」
二人の警告には耳を貸さず、拾った首飾りを自分にかけた。ゆっくりと目を閉じ、日長石を握りしめた。
——っ!
特別激しい拍動が一回。その一瞬、景色が全て消えた。
……?
真っ暗闇の空間。
何かに群がる大人たち。
それを背後から眺める少年。
記憶に新しい悪夢であった。
罵詈雑言を飛ばす彼らに少年は——
「夢……? いや、違うか」
それは、記憶。
それは、トラウマ。
「邪魔だ、どけ!」
右手を左から右へ払う。すると、前を塞いでいた大人たちの幻影が晴れた。
「——リオ」
幻影の向こう側に立っていた、綺麗な巫女衣装に身を包んだ少女が振り返る。
彼女の背には、まばゆい太陽がある。ユウキは、彼女に向かって右手を伸ばした。
少女は、それに呼応するように、少年に向かって笑顔で手を伸ばした。
「……あっ」
だが、二人の手が接触することは無かった。代わりに、日長石が激しく輝く。
その光はやがて闇を照らし、景色はブライトヒル王国の街に戻った。
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