43 / 65
公演開始!
5
しおりを挟む
*****
団員たち全員で、観客への払い戻し対応と謝罪を終えて、全ての客を見送った後。街の方の総合病院に出ていた渚が、戻ってきた。
紫の処置は無事に終わったそうだ。彼女の脳にも異常はなく、足首に全治一ヶ月の怪我をしただけで済んだとのことだった。
「今回は運がよかったわ。下にいたスタッフがクッションになって、衝撃を和らげてくれたから」
「そうでしたか。助かって、本当によかったです」
「うん……それはそうなんだけど。碧の方も、心配ね」
「……はい」
渚と同じく、波音もそれが気がかりだった。碧の率いてきた曲芸団が、かつてないピンチを迎えたこの局面で、どう切り抜けていくのか。
渚と共に裏口から施設内に戻り、稽古場へと向かうと、そこにほぼ全ての団員が集められていた。ミーティングを始めるようだ。
「渚! 紫はどうだった?」
腕組みをし、難しい顔をして座り込んでいた碧が、渚を見つけるなり立ち上がってそう聞いた。
「大丈夫よ。詳細はまた話すけど、検査の結果、命や後遺症に関わることは何もなかったわ。本人も、意識が戻ってすごく反省してた」
「……そうか。分かった、適切な対処をしてくれてありがとう。俺も後で見舞いに行く」
「うん。それがいいわ」
血の気が引いて真っ白になっていた碧の顔に、僅かだが赤みが差した。大切な団員に何かがあったらと思うと、気が気でなかったに違いない。碧は手を叩き、ミーティング開始の合図を出した。
「……まず、今日のことについてだが。改めて、団長である俺の危機管理がなってなかった。本番中に怪我をさせてしまう団員が出てしまったこと、本当に申し訳ない」
沈黙が広がる。誰も、何も言わない。いつも曲芸団のために必死な碧を見ていたら、責められるはずがないのだ。深く頭を下げる碧の姿に、波音の心もズキズキと痛む。
「今後、怪我の可能性がある演目の内容に関しては、適宜協議していくことにする。自分の腕に絶対の自信があっても、過信せず、安全な方をとるべきだ」
「団長。それは、命綱を使うこともある、ということですか?」
真っ先に手を挙げて質問をしたのは、滉だった。彼の担当である空中ブランコは、命綱があっては演技の妨げになるだろう。
「ああ。危険な技を出して観客をハラハラさせるよりも、別の方法で魅せられないか考えるんだ。怪我の危険性が少ない、新たな演目の導入についても検討していく」
「そんな……でも、来週の公演までにすぐ新たな演目なんて……!」
「分かってる。それは徐々にだ。まずは、来週までに紫の抜けた穴をどうにかしなければならない」
再び、辺りは静かになった。演者がいないとなると、他の団員で埋めるしかないように思える。滉のような空中曲芸師なら、すぐに適応できそうなものだが。波音がそう思っていると、碧の視線が波音へと向けられた。
「……波音」
「は、はいっ! なんでしょうか?」
「お前、バランス感覚に自信はあるか?」
「えっ? な、なんで……私?」
「団長……! 正気ですか!?」
碧が何を言おうとしているのか、波音には分かってしまった。それは滉も同じだったようで、即座に異議を申し立てている。
団員たち全員で、観客への払い戻し対応と謝罪を終えて、全ての客を見送った後。街の方の総合病院に出ていた渚が、戻ってきた。
紫の処置は無事に終わったそうだ。彼女の脳にも異常はなく、足首に全治一ヶ月の怪我をしただけで済んだとのことだった。
「今回は運がよかったわ。下にいたスタッフがクッションになって、衝撃を和らげてくれたから」
「そうでしたか。助かって、本当によかったです」
「うん……それはそうなんだけど。碧の方も、心配ね」
「……はい」
渚と同じく、波音もそれが気がかりだった。碧の率いてきた曲芸団が、かつてないピンチを迎えたこの局面で、どう切り抜けていくのか。
渚と共に裏口から施設内に戻り、稽古場へと向かうと、そこにほぼ全ての団員が集められていた。ミーティングを始めるようだ。
「渚! 紫はどうだった?」
腕組みをし、難しい顔をして座り込んでいた碧が、渚を見つけるなり立ち上がってそう聞いた。
「大丈夫よ。詳細はまた話すけど、検査の結果、命や後遺症に関わることは何もなかったわ。本人も、意識が戻ってすごく反省してた」
「……そうか。分かった、適切な対処をしてくれてありがとう。俺も後で見舞いに行く」
「うん。それがいいわ」
血の気が引いて真っ白になっていた碧の顔に、僅かだが赤みが差した。大切な団員に何かがあったらと思うと、気が気でなかったに違いない。碧は手を叩き、ミーティング開始の合図を出した。
「……まず、今日のことについてだが。改めて、団長である俺の危機管理がなってなかった。本番中に怪我をさせてしまう団員が出てしまったこと、本当に申し訳ない」
沈黙が広がる。誰も、何も言わない。いつも曲芸団のために必死な碧を見ていたら、責められるはずがないのだ。深く頭を下げる碧の姿に、波音の心もズキズキと痛む。
「今後、怪我の可能性がある演目の内容に関しては、適宜協議していくことにする。自分の腕に絶対の自信があっても、過信せず、安全な方をとるべきだ」
「団長。それは、命綱を使うこともある、ということですか?」
真っ先に手を挙げて質問をしたのは、滉だった。彼の担当である空中ブランコは、命綱があっては演技の妨げになるだろう。
「ああ。危険な技を出して観客をハラハラさせるよりも、別の方法で魅せられないか考えるんだ。怪我の危険性が少ない、新たな演目の導入についても検討していく」
「そんな……でも、来週の公演までにすぐ新たな演目なんて……!」
「分かってる。それは徐々にだ。まずは、来週までに紫の抜けた穴をどうにかしなければならない」
再び、辺りは静かになった。演者がいないとなると、他の団員で埋めるしかないように思える。滉のような空中曲芸師なら、すぐに適応できそうなものだが。波音がそう思っていると、碧の視線が波音へと向けられた。
「……波音」
「は、はいっ! なんでしょうか?」
「お前、バランス感覚に自信はあるか?」
「えっ? な、なんで……私?」
「団長……! 正気ですか!?」
碧が何を言おうとしているのか、波音には分かってしまった。それは滉も同じだったようで、即座に異議を申し立てている。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
蝋梅
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる