あかね色に染まる校舎に舞い落ちた君は

山井縫

文字の大きさ
71 / 84
保健室で聞かされた彼女の話は

しおりを挟む
 案内されたのは、同じ三階にある図書室だった。扉から見て三つ縦に並んだ机。こちらからみて一番奥に四十代くらいの男性が座っている。
「県警捜査一課の山本警部です。東雲塔子さんだね」
 スリーピースの黒ジャケットにガッチリ決まったオールバックの男はそう名乗った。そして、滝田さんとは違い随分高圧的な口調で言った。
「君は今朝、島谷校長と降矢先生の遺体を目撃したと聞いている。その時の事を話してくれたまえ」
 対して私は見たまんま内容を伝えた。それに彼は軽く頷いて次の話題に移る。
 その後、今度は校長とフル先の人となりや印象などを尋ねられた。特に校長についてはパパ活の件もあるのだろう、噂でも何でもいいので何か情報は無いかとしきりに聞いてくる。
 その様子から、麻衣は私に話をしたことを言っていないと感じたので、一切知りませんで切り抜ける事にした。滝田さんの様にフランクさもなければ、私に必要以上の情報も与えてくれない。余り長く話してて愉快な相手じゃなさそうだからだ。
 それから昨夜の二十二時から二十四時頃までどこにいたのかを尋ねられた。恐らくその時間に二人が亡くなったと見られるのだろう。
 当然ながら私はその時間自宅にいた。そして二十三時半頃には就寝したのでその旨答える。山本警部はそれに対して特に目立った反応もしなかった。そして最後にエリナの件について少し聞かれると、
「ご苦労様。ご協力ありがとうございました。一応連絡先だけ教えて貰って後は帰っていいよ」
 と木で鼻を括る様な口調で言われた。私は「はい」と答えて図書室を後にする。
 結果としては余り意味のない時間を過ごしたなという感覚だ。滝田さんの様に様々な情報を与えてくれた時とは雲泥の差。でも、あれが特殊だったのかもしれない。目撃者とはいえ一民間人に情報を与える理由は本来ない。
 ただ、今しがたのやり取りから考えるに少なくとも山本警部はエリナの件を余り重視していないようだった。
 そんな事を想いながら、教室に戻る。もう既に誰もいなかった。
 私は机にかけてある鞄を手に持ちふと窓の外を見る。そうだ、あの時もこんな感じでそちらに目をやったのだ。すると窓の外。ふっと影が差したような気がした。
「え?」
 思わず声を上げてしまう。その影は上から下に落ちた様に見えた。そう、まさしくあの時、エリナの転落を目撃してしまった時と同じような感覚。
(まさか、また誰か落ちたって言うの?)
 一瞬思考がりながらも恐る恐る外を見る。すると、そこに異常は見られなかった。
 校長とフル先が転落した辺りにテントが張られ、その下で警察官が何やら作業をしている。でも、それだけだ。まさか、そこに人が落ちれば気づかない筈がない。
 やはり自分は少し疲れているのだろうか。
 ありさも言っていたが、私だって先週から含めて三人の死体を見てしまっている。まともである方が無理なのかもしれない。
 そこで帰る前にしおり先生の所に行って少し相談してみようと想った。そのまま保健室へ向かい扉を開けると彼女は机に向かって何か書き物をしていたので声を掛ける。
「先生、あの、ちょっといいですか?」
「ん? ああ、東雲さんどうかしたの?」
 いつも身綺麗にしている熊谷先生だが、今日に限ってはその顔色も冴えない。目の下にはクマも浮き出ていて疲れが色濃く出ている。
「その……私、少しおかしいのかもしれなくって」
「身体の調子がってこと?」
「その、身体は大丈夫なんですけど。何か変なものを視ちゃったって言うか」
 説明しようとしたが面と向かってとなると中々言葉が出にくい。
「何? 変なものって具体的にいうと?」
 私は口ごもりながら、彼女に先ほど自分が見たものを話す。いや、あれを見たのは先ほどが初めてではない。確かあの日、エリナ転落の後、滝田さんと話をした時も同じ感覚を味わった。
「うーん。そうね、私は専門じゃないから、何とも言えないけど、とてもショックな光景をみたり体験をした場合のいわゆるPTSDによるフラッシュバックという奴かもね」
「やっぱりそうなんですかね。私、どうしたらいいんでしょう」
「あまり続くようなら、専門で診て貰った方がいいかもしれないね。えっと、この地域なら月ヶ瀬総合病院にメンタルヘルスの担当課があったと想うんだけど」
「ああ、そうなんですね。月ヶ瀬病院は私の母が看護師として勤めているのでよく知ってます」
「ああ、そうなのね。ならば、お母様に相談してみるのいいかもね。ほら、こういうのって身内でも言い出せないっていう事があったりするからさ」
「わかりました。もう少し様子を見てみます……」と言った後、その流れで私はある事に思い当至った。この流れなら気になっていた事の回答を貰えるかもしれないと想ったのだ。
「あの、月ヶ瀬のメンタルヘルスってエリナも通院してたんですよね」
 私の問いに熊谷先生は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに答えてくれた。
「ああ、なんだ。知ってたんだね」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...