あかね色に染まる校舎に舞い落ちた君は

山井縫

文字の大きさ
上 下
72 / 84
保健室で聞かされた彼女の話は

2

しおりを挟む
 これははったりカマかけだった。
 前回、滝田さんと会った時にエリナが病院に通院していたという話は聞いた。何科にかかっているかは答えて貰えなかったが、内容、症状からすれば、精神科などが該当すると想い調べてみたのだ
 結果、月ヶ瀬病院にはメンタルヘルス科がある事を知った。恐らくこれだと想像が付く。
 更にエリナが通院しているとしたら先生は知っている可能性が高い。養護教諭であり幼馴染だ。何か相談しているに違いないと踏んだのだ。
「以前、母に頼まれごとをして病院に行った時、エリナに偶然会ったんです。それで教えて貰いました」
 私は更に難なくスラスラと嘘を並べ立ててみせる。
「そこまで話してたのね。全然眠れなくて困ってるんだって言われたの。見た目はそんな風には見えなかったから意外だったけどね」
 一応、私のでまかせは尤もらしく聞こえたらしく先生は普通に話を続けてくる。
「はい、授業中とかもそんな素振りは無かったんで私も驚きました」
「寝る前に携帯電話とかを見るのやめたら。とか、コーヒー飲みすぎたりしたんじゃないのって言ったんだけど【そんなのしてない。でも、全然眠れない日が続くの。何だかそれで不安になっちゃったり、気分も落ち着かない。でも理由はわからないし、どうしよう】って、二週間くらいずっと言い続けてたんじゃないかな」
「二週間不眠を訴えてたんですか。それは確かに長いですね」
 それが本当なら確かに相当きつそうだ。ただ、私が思い出す限りその様な素振りをみせていた記憶はない。
「見た目はそんなに変わり無さそうなんだけどね。でも、流石に心配になっちゃってね。例えば最悪、睡眠導入剤とか服用するっていう手もあるけど私もそっちは専門じゃないからさ。薬を飲むにも一度専門で診てもらった方が良いかなってアドバイスしたの」
「そうだったんですか。それで彼女病院受診してから良くなったんですか」
「とりあえずお薬を出して貰ったみたいでね。様子見って事になったみたい」
「へえ。そんな事になってたなんて気づきませんでした」
「まあ、ね。でも、表にはそういうのを出さないタイプっているから。特に彼女、昔から我慢しちゃうタイプだしね」
「我慢……ですか。それも意外ですね。いつもクレバーだなって思う事はありましたけど」
「そう装うのが上手かったって事じゃないかな。同年代の子には大人っぽいとか早熟に見えてたかもしれないけど、私の前では年相応の女の子だったよ」
「……」
 だったと過去形で言葉が結ばれた意味。それを彼女が親しかった熊谷先生が口にした事。それは彼女がもういないという事実を改めて思い起こさせてくれた様な気がして暫く沈黙が漂う。
 その空気を変える為に話題を変えようとしたのかもしれない。先生が口を開いてこういった。
「あ、そういえば月ヶ瀬病院には結構行ったりしてるの?」
「いや、そんなに頻繁にいく事はありませんけど」
 もう少し私達が小さい頃は母の休憩時間を見越して行って一緒にご飯を食べたりしたこともあったが、最近ではそういう事も無くなってしまった。
「そう、じゃあ、病院で降矢先生とは会ってないのね」
「え? 降矢先生も病院にかかってたんですか?」 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

泉田高校放課後事件禄

野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。 田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。 【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

処理中です...