上 下
13 / 84
夜の教室で聞かされた話は

しおりを挟む
「気づかなかったのね?」
 私は滝田さんの言葉に返事もせず、スマホの画面をタップする。鮮やかな緑色に白地の文字が映し出されたあと、アプリが起動し個別の相手先が表示された。その中の月ヶ瀬1年A組グループという欄を選ぶ。
 このグループは教師も含めた連絡掲示板を兼ねたもので、それほど普段活発に使われるものではない。にも関わらず今日に限ってはこんな言葉を使っていい物か分からないが賑やかだった。

【ま、マジかこれ】
【そ、そんな。どうして? 嘘だよ】
【ええええええええええええええええ】
【二見エリナさんが事故でお亡くなりになりました。詳しい事は後ほど連絡いたします。とりあえず落ち着くように】
【な、なにこれ? どういう冗談?】
【ちょっと、エリナ。笑えないよ】

 彼女が亡くなったというメッセージは担任のフル先の物。だが、その前後にも複数のメッセージが書き込まれている。
 そんなクラスメイト達の言葉の波を私はスワイプして送っていく。そしていくつかの絵文字やスタンプなどを越えつつ、ついにそこへたどり着いた。
【私、二見エリナは死を決意しました。理由は誰のせいでもありません。ただ、生きている事に意味を見出せなくなったからです。みんな、今までありがとう。これから遠くへ旅発つけれど私の事忘れないでくれたら嬉しいな。じゃあね】
「こ、これ?」
 またまた声を上げてしまう。遺書という奴なのだろうか、なんだか随分漠然とした内容だ。
「今、初めて目にしたみたいね」
「はい。気づきませんでした」
 当然だ。教室で気を失ってしまい、意識を取り戻して以降もスマホを見る余裕などなかったのだ。
「私も目は通したんだけど、ぶっちゃけ貴方はこれを読んでどう思うかな?彼女が打ち込んだものだとして違和感はない?」
「どうって……」
言われて今一度目をやる。違和感はバリバリにあった。
「文体とかに不自然な部分は感じない?」
「それは感じます。普段の彼女はこんな書き方したりしないと思います」
 生前の彼女の発していた言葉、文章。メッセージ等と比較しても不自然この上ない。
「まあ、死の直前に書いているという事を考えると心落ち着いて書けるものではないでしょうからね。不自然で当たり前かもしれないんだけど、それを踏まえてでもどうかな?」
「ちょっと、判断が付かないですね。でも、随分フワッとしてるなとは思います」
「そうなんだよね。『理由は誰のせいでもありません』って書いてるでしょ。でも、本当にそうならわざわざそんな事書かないんじゃないかな」
「はあ……。では、どうなるんでしょう」
「つまりこれが自殺だとすると彼女は死に追い込まれる何らかの理由があった。しかも、学校の屋上をわざわざ選んで飛び降りたのよね。ならば理由は学校に絡むものじゃないかしら。でも、その内容は公にできないようなものだった。だから、敢えて学校のクラスみんなの目に触れる場所にああいう風に書き込んだ。それを他の人が呼んでも気づかない。でも、思い当たる人物にだけは届くメッセージ」
 それはつまり見る者が見れば『貴方のせいで私は死にます』の意味で届くという事様な意味か。
「それこそ彼女のイメージとは違う様な気もしますけど。それってその相手を責めたり咎めたりする目的ってことですよね」
 人が死ぬ直前にどのような思考に至るのか分からない。
 そもそも、彼女の事をどれだけ分かっていたかも自信はない。それでも、少なくとも私が記憶している彼女はそんな事をするタイプとは思えなかった。
「そうとも限らないよ。遺書というのは想いを残すという事が目的だと思うの。死ぬことによって自分が生きていた事、存在を記憶に残して欲しいという想いをぶつける為の物。そういう解釈をしたら見えてくるものがないかしら」
「そういうものですかね」
 何だかわかったような分からない様な言葉だった。
「まあ、私も言ってて完全に納得できるものじゃないことは分かるってわよ。亡くなっている人の気持ちなんて生きている者にわかりようがないからね。それに……」
 彼女は一旦言葉を切た後、意味ありげにこちらを見ながらいった。
「それはメッセージを打ったのが彼女だという前提の話」
「それってどういう意味でしょう」
「そのままの意味よ。あの内容を書いたのは彼女ではなかった可能性もあるんじゃないかなって思ったり思わなかったり……ね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【連作短編集】東雲塔子の事件簿

山井縫
ミステリー
女子校生、東雲塔子が身の回りに起きる謎に挑む連作短編集。 拙作「あかね色に染まる校舎に舞い落ちた君は」と同じ世界観を共有した作品です。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

紙の本のカバーをめくりたい話

みぅら
ミステリー
紙の本のカバーをめくろうとしたら、見ず知らずの人に「その本、カバーをめくらない方がいいですよ」と制止されて、モヤモヤしながら本を読む話。 男性向けでも女性向けでもありません。 カテゴリにその他がなかったのでミステリーにしていますが、全然ミステリーではありません。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

雨の向こう側

サツキユキオ
ミステリー
山奥の保養所で行われるヨガの断食教室に参加した亀山佑月(かめやまゆづき)。他の参加者6人と共に独自ルールに支配された中での共同生活が始まるが────。

四人の女

もちもち蟹座
ミステリー
[  ] 時代は、昭和 [  ]  場所は、お茶屋の2階、四畳半の お座敷。 [  ] 登場人物、金持ちの男•4人の女

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...