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夜の教室で聞かされた話は
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「それって、つまりどういうことでしょうか」
「言葉通りの意味よ」
言って柔らかに彼女は微笑む。そして流れる沈黙。それを破る為に私は勇気をもってその言葉を口に出す。
そんな彼女に私は「えっと、そもそも……」と切り出しかけて一度言葉を切ってしまう。
そうだ事ここに至っても滝田さんは核心の部分を話してくれていないのだ。
勿論、気にはなっていた。でも、それを聞くのには躊躇いがあった。
だってそれを聞くことでそれを事実として受け止めなくてはならないのだから。いや私はその瞬間を見てしまったのだからそれを否定はできないのだけれども。
でも、その記憶自体をどう整理し気持ちとして昇華するかも決められていない。又、それを聞くことで彼女の死を興味本位でほじくり返すような事になるんじゃないかという罪悪感も並行してもたげてきていた。
死、そうだ、改めて認識する。彼女は、エリナは死んでしまったんだ。
ああ、あの光景が夢であってくれたらどれだけ有難いことか。でも、事実なのだろう。こうして警察まで出張ってきている。それでも自分から言い出すことに抵抗は禁じ得ない。
それでも、どうにかこうにか言葉を絞り出してみる。
「か、彼女はどうやって……えっとっ……飛び降りたんでしょうか」
「うーん。やっぱり気になるわよね。でも、ごめんなさい。それは今の所答えられないわ」
私の質問に彼女は曖昧な言葉を返してくる。でも、その表情にははぐらかす気配がみられなかった。
「そ、捜査上の秘密という事ですか」
私はドラマや漫画などで聞きかじったことのある言葉を並べ立ててみる。
「ん~、そうね。確かに捜査上の秘密っていうのもあるにはある。関係ない人にみだりにその内容を喋っちゃいけないってのは当たり前よね……んだけど、それ以前にね。ぶっちゃけ今の所はまだ分からないっていうのが事実ね。それを調べるために私達が来てる訳だしね」
「そ、そうですか」
「まあ、ただ分かったことも勿論あるわよ」
言われるまでもない。警察が私ですら知り得ない校内の情報や級友達のプライベートな事を探り当てている事に、これまでの会話で十分思い知らされていたからだ。
「知りたい?」
言って彼女は意味ありげな目つきで私に顔を寄せる。その様に私はドギマギする心を禁じ得ない反面、黄信号も灯る。
彼女の話は随分と迂遠だとは思っていたのだ。
ストレートな物言いをしないのはクラスメイトの転落のその瞬間を見て気を失った私への配慮かとも思ったりもしたが多分違う。
この教室に来てからの彼女との会話の流れを思い返してみれば何となく想像がついた。
一番初めに聞いてきた質問はエリナとクラスメイトの間でトラブルがなかったかだ。その返事で私の出方を見たのだろう。それに対して私がホイホイと喋るなら問題がない。が、口が重そうだと判断した彼女は情報を小出しにしながら私の好奇心をつりあげていったのだ。
当然、私はそれに抗う事はできなかった。
「えっと……。教えていただけるんですか」
それは私の妄想だったのかもしれない。が、彼女の笑みは口まで裂けてバックリと呑み込もうとしているように見える。
それを言葉にした段階でしまったと想ったがもう遅かった。
「まあ、ね。先ほどあなたの言った通り言える事と言えない事もあるし、何よりまだ調べて間もないからね。分かってることも少ないのだけど、こんな時間まで協力してくれているあなたになら特別に答えてあげてもいいわ」
彼女は特別にという所に力を込めて言う。その言葉の裏には私達が話すんだから、貴方も知っている事は全部話してちょうだいねという想いがビンビンに伝わってくる。
こうなっては仕方がない。私は頭を切り替えて事に当たる覚悟を決める。
「じゃあ、まず基本的な所から聞きたいんですけど。先ほど滝田さんは『屋上を選んで飛び降りた』と言ってましたよね。彼女が落ちたのはそこで間違いないんでしょうか」
この高校は下の階から、
一階が三年生の教室に保健室や職員室と会議室に印刷室。
二階が二年生の各教室に学食、購買。
三階が一年生の各教室と図書室に進路相談室に校長室。
四階が音楽室や家政科室、コンピュータールーム。それに視聴覚室、理科室、美術室
などと割り振られている。
屋上は更にその上だ。
あら、ちゃんと話を聞いてくれていたのねと言った後彼女はこう続けた。
「恐らく、ね。まだ調べている最中だから確実な事は言えないけど。
屋上の入り口に靴が置いてあってね、それとは別に転落したと思われる場所にはスマホが残されていたわ」
「入口に靴っていうのは?」
「文字通りよ。あなた屋上に上がったことある?」
「何度か上がった事はあります。授業の時に先生と一緒にですけど」
あれは確か地理の授業の時に上がった事があったっけ。
他にはなんでか記憶が定かではないが数度上がった事はある。なので場所の構造は大体想像いた。
「なら奥の四階から上がっていくと扉があるのは分かるわよね。開けると建屋があってそれを抜けると更に屋上の入り口があるでしょう」
「入口っていうのはつまり、その建屋内に靴を残していったと……」
建屋の中は狭い。屋上入り口以外壁には機械室と書かれた扉が付いているだけだ。そんなところに靴だけ残したというのか。
「な、なんでそんなことをしたんでしょう」
屋上自体は何の変哲もない開けた場所で地面もコンクリートの打ちっぱなしだ。洒落た校舎なら屋上にテニスコートやテラスのように使われる所もあるようだがウチは違うし、そうしたところでもまさか靴を脱いだりはしないだろう。
そんな私の考えが通じたのか、
「さーてね。まさか土足厳禁だったって訳でもないでしょうし。寧ろあなたは何か思い当たることはない?」と滝田さんも両手を広げて大げさに首を振る。
「ちょっと分からないですね。でも、飛び降りる人って靴を残すとかっていうじゃないですか。そういう事なんじゃないですか」
「フィクションではそういう話も多いけど、実際に投身自殺者が靴を残すって事例はあまり聞かないの」
「そうなんですか」
「それに、もしそうだとしてもなんでわざわざ入り口の建屋でかっていうのが分からないわよね。スマートフォンは飛び降りたと思われる柵の手前に置いてあったのにね」
「それは……おかしいですね」
「言葉通りの意味よ」
言って柔らかに彼女は微笑む。そして流れる沈黙。それを破る為に私は勇気をもってその言葉を口に出す。
そんな彼女に私は「えっと、そもそも……」と切り出しかけて一度言葉を切ってしまう。
そうだ事ここに至っても滝田さんは核心の部分を話してくれていないのだ。
勿論、気にはなっていた。でも、それを聞くのには躊躇いがあった。
だってそれを聞くことでそれを事実として受け止めなくてはならないのだから。いや私はその瞬間を見てしまったのだからそれを否定はできないのだけれども。
でも、その記憶自体をどう整理し気持ちとして昇華するかも決められていない。又、それを聞くことで彼女の死を興味本位でほじくり返すような事になるんじゃないかという罪悪感も並行してもたげてきていた。
死、そうだ、改めて認識する。彼女は、エリナは死んでしまったんだ。
ああ、あの光景が夢であってくれたらどれだけ有難いことか。でも、事実なのだろう。こうして警察まで出張ってきている。それでも自分から言い出すことに抵抗は禁じ得ない。
それでも、どうにかこうにか言葉を絞り出してみる。
「か、彼女はどうやって……えっとっ……飛び降りたんでしょうか」
「うーん。やっぱり気になるわよね。でも、ごめんなさい。それは今の所答えられないわ」
私の質問に彼女は曖昧な言葉を返してくる。でも、その表情にははぐらかす気配がみられなかった。
「そ、捜査上の秘密という事ですか」
私はドラマや漫画などで聞きかじったことのある言葉を並べ立ててみる。
「ん~、そうね。確かに捜査上の秘密っていうのもあるにはある。関係ない人にみだりにその内容を喋っちゃいけないってのは当たり前よね……んだけど、それ以前にね。ぶっちゃけ今の所はまだ分からないっていうのが事実ね。それを調べるために私達が来てる訳だしね」
「そ、そうですか」
「まあ、ただ分かったことも勿論あるわよ」
言われるまでもない。警察が私ですら知り得ない校内の情報や級友達のプライベートな事を探り当てている事に、これまでの会話で十分思い知らされていたからだ。
「知りたい?」
言って彼女は意味ありげな目つきで私に顔を寄せる。その様に私はドギマギする心を禁じ得ない反面、黄信号も灯る。
彼女の話は随分と迂遠だとは思っていたのだ。
ストレートな物言いをしないのはクラスメイトの転落のその瞬間を見て気を失った私への配慮かとも思ったりもしたが多分違う。
この教室に来てからの彼女との会話の流れを思い返してみれば何となく想像がついた。
一番初めに聞いてきた質問はエリナとクラスメイトの間でトラブルがなかったかだ。その返事で私の出方を見たのだろう。それに対して私がホイホイと喋るなら問題がない。が、口が重そうだと判断した彼女は情報を小出しにしながら私の好奇心をつりあげていったのだ。
当然、私はそれに抗う事はできなかった。
「えっと……。教えていただけるんですか」
それは私の妄想だったのかもしれない。が、彼女の笑みは口まで裂けてバックリと呑み込もうとしているように見える。
それを言葉にした段階でしまったと想ったがもう遅かった。
「まあ、ね。先ほどあなたの言った通り言える事と言えない事もあるし、何よりまだ調べて間もないからね。分かってることも少ないのだけど、こんな時間まで協力してくれているあなたになら特別に答えてあげてもいいわ」
彼女は特別にという所に力を込めて言う。その言葉の裏には私達が話すんだから、貴方も知っている事は全部話してちょうだいねという想いがビンビンに伝わってくる。
こうなっては仕方がない。私は頭を切り替えて事に当たる覚悟を決める。
「じゃあ、まず基本的な所から聞きたいんですけど。先ほど滝田さんは『屋上を選んで飛び降りた』と言ってましたよね。彼女が落ちたのはそこで間違いないんでしょうか」
この高校は下の階から、
一階が三年生の教室に保健室や職員室と会議室に印刷室。
二階が二年生の各教室に学食、購買。
三階が一年生の各教室と図書室に進路相談室に校長室。
四階が音楽室や家政科室、コンピュータールーム。それに視聴覚室、理科室、美術室
などと割り振られている。
屋上は更にその上だ。
あら、ちゃんと話を聞いてくれていたのねと言った後彼女はこう続けた。
「恐らく、ね。まだ調べている最中だから確実な事は言えないけど。
屋上の入り口に靴が置いてあってね、それとは別に転落したと思われる場所にはスマホが残されていたわ」
「入口に靴っていうのは?」
「文字通りよ。あなた屋上に上がったことある?」
「何度か上がった事はあります。授業の時に先生と一緒にですけど」
あれは確か地理の授業の時に上がった事があったっけ。
他にはなんでか記憶が定かではないが数度上がった事はある。なので場所の構造は大体想像いた。
「なら奥の四階から上がっていくと扉があるのは分かるわよね。開けると建屋があってそれを抜けると更に屋上の入り口があるでしょう」
「入口っていうのはつまり、その建屋内に靴を残していったと……」
建屋の中は狭い。屋上入り口以外壁には機械室と書かれた扉が付いているだけだ。そんなところに靴だけ残したというのか。
「な、なんでそんなことをしたんでしょう」
屋上自体は何の変哲もない開けた場所で地面もコンクリートの打ちっぱなしだ。洒落た校舎なら屋上にテニスコートやテラスのように使われる所もあるようだがウチは違うし、そうしたところでもまさか靴を脱いだりはしないだろう。
そんな私の考えが通じたのか、
「さーてね。まさか土足厳禁だったって訳でもないでしょうし。寧ろあなたは何か思い当たることはない?」と滝田さんも両手を広げて大げさに首を振る。
「ちょっと分からないですね。でも、飛び降りる人って靴を残すとかっていうじゃないですか。そういう事なんじゃないですか」
「フィクションではそういう話も多いけど、実際に投身自殺者が靴を残すって事例はあまり聞かないの」
「そうなんですか」
「それに、もしそうだとしてもなんでわざわざ入り口の建屋でかっていうのが分からないわよね。スマートフォンは飛び降りたと思われる柵の手前に置いてあったのにね」
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