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第八部 大嫌い
第二十四話 つがいだけを残したい
しおりを挟む一方、スノードームのジャングルで生活していた陽炎達は、殺して狩った動物を焼いていた。
腹が減っては戦ができぬと、二人で食べることにしたのだ。
兎の丸焼きは、とても香ばしくて美味しかった。味付けは、獅子座がいつも戦場用に持ち歩いているというカレー粉しかなかったが、充分カレー粉の味で、陽炎の舌を唸らせた。
食事を終えると、火の番を獅子座に頼み、陽炎は別の生き物の狩りを目指す。
(――餓死させる、という方法もあるよな。いや、でもピラミッドの最下層から殺していく方が疲れるだろう。疲労を覚悟して、最下層か、真ん中あたりを殺していくか……それとも、頂点を殺すか)
うーん、と陽炎が悩んでいると、ふと木々から小鳥の鳴き声が聞こえた。
見上げると、仲睦まじく、囀りあっていて、ふとその姿は己と鴉座を思い出した。
(……――絶滅……)
きっと、甘いと雹に言われるだろう。それでも、陽炎はふと思いついたことを実行したくて、空に大声を出した。
「お師匠さん、聞こえる!? あのさー、もう一度最初からやり直しできない?」
“宜しいでしょう、だけどできれば早く終わらせてくださいねー。一時間追加ごとに料金増していきますからねー”
「……がめついなぁ」
陽炎が頭を掻くと、光景は元に戻り、陽炎は再び修行をする。
しかし、先ほどとは違って、明確な目的を持ち――。
獅子座は、陽炎の、どんどん非情になっていく様を見て、悲しかったけれども、逞しく思えてきた。
この非情さならば、どんな苦難も乗り越えることが出来る。
彼を騙しそうな人には、もうほいほいとついていかない程、非情になってくれればと願う。
お人好しは少しずつでいいから、消えていってほしい。
少しでも陽炎が傷つく行動は、消えていくことを願っていた。
陽炎がいて。強くなっていく姿が見られて。一緒に生活ができて。
――そこには己しかいないから、己に頼るときは頼る。
獅子座は、少し邪な思いだが、幸せだった。
永遠とは言わないが、少し長く続いて欲しかった。
だが、それは無理なのだと、気付いた。陽炎が、一ヶ月で粗方片付けたからだ。
「お師匠さん、倒せた!」
“絶滅、といったはずですが? どれも、雄と雌が一匹ずつ残ってるじゃないですか”
「ああ、何かね、やっぱり絶滅って怖いから。架空の世界でも。――未来に託してほしいんだ、命を。繁栄させてほしい。俺は奪うことしかできないから」
“……――何故そんなことを思いついたんですか?”
空からの声に、陽炎は苦笑を浮かべて、剣を置いた。
「――俺と鴉座じゃ、繁栄できねぇからさ。繁栄できる奴同士でくっつけるなら、繁栄してほしいって思って。タネを、残して欲しいって」
「陽炎……」
獅子座は、主人の捨てきれない優しさに、少し悔しさを感じたが、嬉しくもあった。
ああ、変わらない優しい人なのだと。
傷ついても、そうだ、鴉座がいる。傷ついたときは鴉座が慰めればいい話しなのだ、獅子座はそう思い、完敗を認めた。
(あの頃――あんたとあの鳥がくっつくって知ったら、邪魔していたかもしれない。だけど、もう、今は邪魔しなくて良かったって思うんだべ。……幸せに笑う、あんたが見られたから。おらじゃ、そこまで笑わせることはできないって思うんだ……悲しいけれど、あんたの笑顔が一番好きだから)
ずっと孤独を秘めていた人だったから――。
獅子座の笑みに気付いたのか、陽炎が此方を振り返り、ガッツポーズを見せた。そして、白い歯を見せて笑って見せた。
雹の溜息が聞こえて、優しい光りを受けた。
「しょうがないですね。非情になりきれない貴殿はもう、直しようのないバカということにしておきましょう。その代わり、料金は倍頂きますから――何より、貴殿の客人が、そろそろ五月蠅くて……」
光りが優しく降り注ぎ、白い世界の中に入れられたと思い、瞬きすると、そこには現実。
悲しい現実――。
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