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第七部 鬼夢花
第十九話 こんなにも強くなりたいと願うのは
しおりを挟む「――かげ君、三軒目の茶屋に向かって逃げたら、すぐに角に曲がるんだ、そこからは伊織様の陣地だから入れない、オニは! 逃げ道は菫が確保している!」
「柘榴は?!」
「おいらはこいつらの気を引きつける!」
柘榴は蹴りでオニの拳を払うと、ざっと慣れない和服でも動きやすそうに、リズムを取る。戦闘において、自分のリズムに持って行くというのは非常に大事だ。リズム一つ狂えば、敵にもっていかれる。だから、柘榴はリズムを取り、もう陽炎のことは気に掛けない。
陽炎は戸惑うも鴉座のうめき声が聞こえたので、はっとし、柘榴を置いて、その場から去っていく。
柘榴は陽炎が去ったのに、気配で気付くと、ほっとし、オニたちを相手に自分の逃げ道も確保しようとする。
菫に逃げ道を求めるのは無理だ――彼はあの体力ならば二人分しか運べない。故にオニをひたすら倒し、道をあけていく。
だがオニは強い、暗殺者なんかより、どんな賞金首よりも。
これは下手したら武術では白雪でも敵わないのではないだろうか、なんて冷や汗をかきつつも、柘榴はそれでも懸命に戦う。
だがついにナイフが折れ、ワイヤーもぼろぼろになった時がきて――柘榴は、息を飲み込んだ。
ひゅうっと息を飲み込み、脂汗をこめかみに伝わせて、怖さからの笑いを浮かべてしまう。
「やばいね、肌色を保つ余裕もないよ」
柘榴は圧倒的に強いオニを幾つも相手する疲労から、肌色の安定が出来ずに、青白い肌色になってしまう。
それに気付いたオニが柘榴に怯え、一歩後退る。
「セイレイ――」
「お、何だ、喋ること出来るんだね、あんたら」
「セイレイ――ウマイ、セイレイ、ツカマエル!!」
「嫌なこと喋るなぁああ!」
柘榴は戦慄きつつ、本気になったオニには敵わないのか、思いっきり殴られ、何処かの店の壁に激突し、壁に血痕を大きく残し、ずるずると地面に崩れ落ちていく。
ううっと呻き、ぜぃぜぃと息を荒げ、立ち上がろうとするが、それは無理だ。膝がもう笑っている。
力なんか出てこない――陽炎を助けるつもりで来たのに、己は何と非力なんだろうか。
でも少し予感はしていたかもしれない、こうなることは。陽炎を助けるということはいつかは命を犠牲にすることだと予感はしていた。
彼を放っておけば命は保証される。だけど、放っておけない、いつまでたっても大好きで大事で、とっておきの人。
恋破れ新たに別の好きな人が出来た今でも、特別な人。絶対に絶対に、放ったままなんてできない人で、彼の願いならば、全てを叶えたくなる。
そう、どんな不可能な願いでも、全て全て叶えてやりたくなる。己を甘くさせてしまう人物なのだ。鷲座を少し見習って適度に厳しくありたいのに、どうしても彼の背中を見ると、手を伸ばしたくなる。
恋心など、消した筈なのに。親友だから? 今は魚座が好きな筈――だから、これはきっと友情、そう、友情だ。
でも、いつ見ても、どんな人に囲まれても、鴉座が隣にいても寂しげな背中を見ると、頭を撫でたくなる。年上の彼に。
そんな彼をどう放っておけというのだろうか?
(――こんな奴ら相手にでも勝てるって、世界最強ってやつはどんだけ遠い存在なんだ。そんなのになれるわけがないんだ。不老不死、なりたいのに――なりたいのに!)
不老不死になれば、陽炎の代わりに妖仔を全て背負って、彼に好きな星座を預けることができるのに。
己が彼の、寿命を犠牲にする河をせき止める堤防になることができるのに。
「強くなりたい……! かげ君を守れるぐらいに、強く、強く……! 誰よりも!」
柘榴はぐらぐらとする頭で、無意識に呟いた。
ただ、その無意識の呟きに反応したのが、時間の歪み。時空を歪め、秒針すら無視した存在が現れる。
「なりたきゃなれば、いいじゃねぇか、ホーリーゴースト」
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