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第六部~梅花悲嘆~
第十六話 強大な運命力
しおりを挟む「蓮見は西の方角に居る。だけど、菫クンが助けてくれるでしょう。蓮見がもしも菫クンに会った際に、陽炎さん、貴方に――何かが起こる。否、判明するだろう。貴方の人生は、それで大分変わる……」
「……お前が蓮見を渡して、何かする予言じゃねーだろうな?」
「貴方に回りくどく言うのはいけないみたいだな。――白雪様が、もし何かあったら貴方に手を貸して占うようにって言ったんだ、だからこうして逆らえないから助けてるのに、貴方は疑う――悲しいね。随分嫌われたこと」
「その割りには嬉しそうですね?」
鴉座がにやけている字環を指摘すると、字環は鴉座を睨み付けてから、陽炎の頬をそっとなぞり、にこりと微笑む。
そして一瞬で加虐的な笑みに変えて、なぞっていた手で頬を引っ張り、抓るのだが。
「――嬉しいに決まってるさ。憎しみは愛情と紙一重だって言うじゃないか?」
「好かれないなら嫌われたい? 随分と短絡思考ですこと」
「……君に何が分かる? 僕と陽炎さんは、共有出来るものがある。君には決してわかり得ぬことだ」
「――おえがおあえのあにをっ」
痛そうに、陽炎は涙目で反論しようとしたが、痛さに耐えきれなかったのか、字環の手を払いのけて、睨み付けながら、頬をさする。
字環はにぃっと笑い、その瞬間、陽炎と己の外にだけ結界を張り、誰も触れることが出来ないようにする。
そうしてから、陽炎の首根っこに抱きつくように、身を寄せて、陽炎の耳元で囁く。
「――世の中にはどうにもならないことがある。だから諦めるしかない――そう思って育ってきただろう?」
「……ッ!」
それは図星だったようで、陽炎は顔色をさっと変えて、字環を突き飛ばそうとするが、体が動かない。
もどかしさに苛つきながら、字環に触れている箇所を気持ち悪く思う。
「どうせこうなる運命だった。足掻いてもしょうがない。どうせ自分でやるしかない――だから、何もかも拒絶しよう、その方が楽だ」
「……――字、環」
「陽炎さん、僕にはとってもその気持ちは分かる、だって僕は見えない力に翻弄された人間だからね――君のように。とてもとても大きな力。ねぇ、陽炎さん、君がプラネタリウムを拾ったのは本当だとして、そこから先は本当に偶然なのかな。何か宿命とか、そういう大きな意図が動いて、君と蒼と柘榴様を引き合わせたんじゃないだろうか?」
「……――その流れに、俺が翻弄されて、流れの通りに動いていると?」
「さぁ、偶然かもしれない。でも凄く、強大な力だな、って思って。貴方の不幸は」
そう言うと字環がお互い顔が見える程度に離れて、柔らかな笑みを見せる。
彼の笑みにも、白雪のように種類がありそうだなと思ったが、それは結構分かりやすそうだった。
鴉座が何か字環に言ってるが、耳に入ってこない。まるでそういう術があるように。でもきっとこれは違う。ただ、心の奥底で少し感じていたことを言い当てられて動揺してるから、耳に入らないのだろう。
それを見透かしたような目を、字環はしている。
「白雪様がね、君の運命を占えって、城で誰もいないときに言われたんだ。だから、彼の目の前で占った。君の将来を、占った。結果は、吉か凶かしか言わなかったけど。怖かった、視線だけでも、何か間違えたこと言ったら消されるかと思ったよ――結果が知りたい?」
「……――知りたく、ない」
やめろ、と喚くことが出来たら、喚いていた。だけども、鴉座が側にいるから、そのような大人げないこと出来るはずもなく、小さな声は掠れるように出た。
だが字環はその声が聞こえているにも関わらず、話そうとする。
だから、陽炎は泣きそうな顔をした。
――その時、鴉座が結界を破って、字環を殴った。
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